前年度までの研究で、カプサイシンの口腔内検知閾値はその個人差が大きく舌前方で低閾値群と高閾値群が存在すること、その閾値の違いは辛味受容体遺伝子の一部の既知SNPと相関があることを報告した。具体的には、辛味受容体TRPV1のexon領域の既知SNP数箇所を対象としてリアルタイムPCR法により行った。その上で上記の低閾値群・高閾値群の2群間でハプロタイプ(SNPの組み合わせ)解析を行ったところ、7通りのハプロタイプが存在し、このうちある1通りのハプロタイプが低閾値群に特異的であることが分かった。すなわち、日本人の辛味感受性は各個人の遺伝的背景、具体的には辛味受容体の遺伝子多型によって左右される可能性が示された。 上記の成果では検知閾値を測定する方法として濾紙ディスク法を用いた。濾紙ディスク法は本邦の味覚検査法(4基本味の認知閾値測定法)として用いられているが、口腔内の様々な部位に特異的な閾値測定が可能な半面、一定の手技を必要とする。本研究ではより簡便な測定方法を確立するため、ドイツで開発された味覚検査法として知られるTaste Strips法を用いてカプサイシンの口腔内検知閾値測定を試みた。カプサイシン検知閾値のヒストグラムは濾紙ディスク法による結果と同じく、検知閾値の個人差は大きく、低閾値群と高閾値群が存在することが示された。口腔内化学感覚の検知閾値測定においてTaste strips法は有用な方法の1つと考えられる。
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