本研究では、おいしい食感をデザインするための基盤手法となる2次元食感マップの開発を目的とした。具体的手順では、食感をかたさやねばりで表現される知覚食感とおいしさを表現する「口どけが良い」の様な感性的な認知食感にわけた。時間軸と口腔部位を意識した官能評価でこれらを相関づけた。さらに、人工唾液中で客観的な機器分析を行い、食品の破壊過程における力学特性(レオロジー)・潤滑(トライボロジー)・構造(モルフォロジー)の変化を解析した。おいしい食感を、咀嚼中の知覚食感の変化に対応した機器分析結果の変化として2次元マップ化すことができた。 2次元食感マップを用いて「口どけが良い」で表現されるおいしさを、ヒトそれぞれの一言で終わらせるのではなく、マップ上のどの物性をどのタイミングで重要視するのかが異なるためと説明でき、さらなる食品開発につながると期待できる。 この様に、本研究の特徴は時間軸と口腔部位を意識した分析型官能評価と、人工唾液中の機器分析を相関させる点にある。さらに、2次元マップ化することで直感的に理解しやすくなり、食品開発の現場で利用しやすくなる。本研究の最終年度では、アイスクリーム・チョコレートについて検討した。特に、結晶が融けた後・人工唾液に溶けた後の物性測定と構造観察を行い唾液の影響を明らかにした。研究期間全体を通じて、結晶性食品(アイスクリーム・チョコレート)、含気泡・低水分食品(シフォンケーキ)、ゲル状食品(ギリシャヨーグルト等)、ゾル状食品(ホワイトソース)で人工唾液法の有効性を示した。さらにギリシャヨーグルトでは口どけと濃厚の関係を、ホワイトソースでは口どけと破壊構造の関係を明らかにした。この様に基本構造の異なる種々の食品において2次元食感マップの有効性を示すことができた。本研究はおいしい食感の実現のための基盤となり、食生活を豊にすることに貢献すると考えている。
|