筆者らは、効果的な金融経済教育の体系化を目的として、現役社会人を対象とする金融経済教育の教材開発・実践と教育効果測定に取り組んできた。 しかし、研究期間中に発生したコロナ禍に伴い、通常の対面による金融経済教育が困難であったことから、代替としてオンライン教材を開発し実践するのと同時に、新聞やインターネトのブログ、ラジオ放送などのマスメディアを活用した社会人向けの金融経済教育を並行して実施した。 さらに、わが国でこれまで実施されてきた金融経済教育の経緯と現状について諸外国との比較を含めて概観した。金融広報委員会の調査によれば、現役社会人である労働者が金融経済教育を受けたことのある割合は6.2%に過ぎない。学校教育を修了した現役社会人が金融経済教育を受ける機会は限定的であり、確定拠出年金での各自の運用を考えるための投資教育が貴重な機会となっている。また、各自治体による金融経済教育の取組みは限定的であり、担い手として役割を高める工夫が必要がある。今後は、2024年4月に政府が新設した金融経済教育推進機構が派遣する中立の立場の金融アドバイザーを講師とした自治体や職域単位でのセミナーなどの活用が有効と考えられる。 ただし、金融経済教育が新しいNISA制度等による証券投資の推進のみに偏重し、「投資教育=金融経済教育」として、狭い意味で認識されることは避けなければならない。むしろ、投資教育をきっかけとして、現役社会人が金融経済教育に主体的に取り組み、各自のライフプランを作成し、その実現に向けて家計管理を見直す中で、一生お金に困らない金融リテラシーを身に付けることこそが重要である。
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