研究課題/領域番号 |
19K02313
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
西川 陽子 茨城大学, 教育学部, 教授 (60303004)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ESD / SDGs / 食教育 / 食文化 |
研究実績の概要 |
食育基本法が制定され15年余りが経ち、現在の食生活に鑑みて、次世代に食の安全や食資源をできる限り守り継ぐ意識(食におけるサステナビリティ)を持ち現在の自身の食生活がどうあるべきかを考えられる力を育む教育が望まれる。本研究は、食教育へのサステナビリティ教育(ESD)の導入促進を目的とし、その教育の効果と必要性について教育実践による実質的な数値データに基づき提言することを目的としている。研究は2つの柱を置き推進する計画となっている。全体研究4年間のうち主に前半部分で行う「A:食文化を題材とする教材開発と教育方法の検討」と、Aの研究から得られる開発教材を用いて研究後半部で行う「B: 教科横断的教育要素の取り入れ方の追究」である。研究初年度である2019年度は、Aの食のESDのための教材開発研究に取り組んだ。教材対象は、この研究の独創的な点としても掲げた食文化の要素を取り入れた伝統的食品保存加工手段(乾燥、発酵、など)であり、食生活におけるESDに向けた教材としての有効性を検討した。今回は乾燥加工に着目し、野菜類(根菜類中心に複数分析)の乾燥加工における栄養学的評価を試み、実用的な2割干しにおいて、保存中の酸化により損失しやすいビタミンC(V.C)を指標として分析したところ、加工前の約60%のV.Cが保持可能であることが明らかになり、栄養学的観点からも推奨可能な長期保存加工手段であることが明らかになった。近年の家庭における一般的な野菜の保存手段である冷蔵保存と比べると、乾燥加工保存の利点は冷蔵保存は概ね1週間程度の短期保存であるところ長期保存可能なこと、電気などのエネルギーを使用せず加工保存が可能なことであることが挙げられる。これらのことから、伝統的食品保存加工手段である野菜の乾燥保存は、食のESDのための教材として有用であると推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体研究の前半部の研究として計画していた「A:伝統的食品保蔵手段を題材とした教材開発」について取り組み、伝統的食品保存手段である野菜の乾燥加工保存について、V.Cを指標として酸化障害は大きくはなく、栄養学的観点からも推奨可能な加工保存手段であることを示唆する結果が得られた。データは食のESDにおける提示教材として利用可能であるとともに、環境負荷の少ない食生活を考えるための教材として伝統的食品加工保存手段である乾燥野菜の教材としての有用性を示唆するものであった。そして、この結果については論文としてまとめ、成果の公開及び社会への還元を図った。これらのことから、2019年度の研究は概ね順調に進んだと評価できる。 一方、実験分析した試料野菜の種類が限られていること、他の保存加工手段との比較などにおいて十分ではないこと、これらに関して更なるデータ集積を試み今回得られたデータとの比較検討を行う必要があると考えられた。例えば、現在の野菜や果実の乾燥加工手段として広まりつつある色や香りの保持が良く、栄養の損失も少ないとされる凍結乾燥によるものとの比較などである。凍結乾燥野菜における同様の分析結果と既に得られているデータとを比較して、酸化障害による栄養的損失の割合において大きな開きがなければ、多くの電力を要する凍結乾燥によらずとも家庭での食生活に取り入れ可能な野菜の乾燥加工手段が環境負荷の少ない野菜の保存手段として推奨できることをより明確に示せることになる。これについては、研究計画にも記載していたディープフリーザーを購入し、既に検討を始めている。なお、COVID-19の影響で、2019年度の購入を予定していたディープフリーザーの納品が遅れ2020年4月となり、予算使用が2020年度扱いになっているが、研究は予定通り順調に進められている。
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今後の研究の推進方策 |
食生活におけるサステナビリティを考えるための教育方法について検討するために、研究初年度の2019年度は、研究の柱Aに相当する伝統的食品保存加工手段(乾燥、発酵など)を題材とした教材開発を行った。その結果、野菜の乾燥加工保存について検討し、その教材としての有効性を示唆する結果が得られた。本研究2年目となる2020年度は、研究の柱Aの教材開発において教育実践可能な形にまとめていく必要がある。2019年度に得られた野菜の乾燥保存をテーマにした結果については、データの提示教材化に向け、乾燥加工に関連する更なるデータ集積を試みる予定である。具体には、凍結乾燥野菜との比較検討、他の野菜類における結果の再現性確認、食品ロスにつながる野菜の廃棄部分における乾燥加工の有用性の検討、これらについて行うことを考えている。また、野菜の乾燥加工品による実践教育教材(実験・実習)の可能性についても検討したいと考えている。一方、伝統的食品保蔵手段として教材可能性が考えられる野菜の発酵保存について、乾燥保存と同様に教材化の可能性について検討することを考えている。発酵保存については乾燥保存と異なり、学校の授業時間への適応や失敗しないための衛生管理の面倒さから、教育現場において実践教材(実験・実習)として活用することが難しい。そのため、乾燥加工のような実践教材としての活用までは考えず、環境負荷の少ない食生活に向けて伝統的食品保存手段の有用性を示すための提示教材(データ)としてのみ、その教材可能性を追究することを考えている。また、2021年度以降に取り組む予定の「B: 教科横断的教育要素の取り入れ方の追究」に向けて、開発教材の活用方法や高校生を対象とした教育実践の方法などについて、2020年度内に検討を始めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響で、2019年度の購入を予定していたディープフリーザーの納品が遅れ、来年度使用となった。2020年4月に納品され、研究としては予定通り順調に進められている。
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