研究課題/領域番号 |
19K02322
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研究機関 | 東京家政大学 |
研究代表者 |
葛原 亜起夫 東京家政大学, 家政学部, 期限付教授 (00813916)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 繊維状タンパク質 / ジスルフィド結合 / タンパク質繊維 / 高機能性絹繊維 / タンパク質化学修飾法 / 分光法 / 繊維加工 / 機能加工 |
研究実績の概要 |
計画初年度として,以下に示す検討を行った。 しわ回復性・形態安定性を付与、及びフィブリル化を防止した新しい環境調和型天然繊維(高機能性絹繊維)を創生することを目的とし、浸漬法により、繊維状タンパク質(羽二重絹布帛、及び変わり無地絹布帛)に、タンパク質化学修飾法を用いて-SH基を導入後、酸化架橋することにより、ジスルフィド(-SS-)結合の導入を試みた(-SH基導入→酸化架橋法)。 ①絹布帛の防しわ性評価試験法の精緻化を行い、加工布帛のしわ回復性を評価した結果、しわ回復時間が増加するにつれて、開角度が増加し、加工布の開角度は,未加工布に比較して向上した。さらに2-IT最適加工条件を検討した結果、変わり無地布帛において、絹本来の風合いを変化させることなく、開角度差20°以上の実用化レベルのしわ回復性の付与に成功した。 ②本科学研究費で購入したマイクロスコープにより、フィブリル化を発生された加工布帛の表面観察を行ったが、従来の擦れ性評価方法では見極めが困難であったため、フィブリル化を防止した絹繊維の検討は令和2年度に継続する。 ③エルマン法を用いて絹繊維中の-SH基導入量を確認、イオンクロマトグラフィーを用いて絹布帛中に導入されたS含量を分析した結果、2-IT濃度が増加するにつれてS含有量が増加したことから、本加工法により、絹布帛中に-SH基が確実に導入されていることを確認した。また、ラマン分光法により絹布帛に導入された-SS-結合は、検出限界以下のため、同定できなかったが、わずかな-SS-導入量により、タンパク質繊維に対して高機能性を付与できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要(上記)に示したとおり、計画初年度である令和元年度は、所期の目標をほぼ計画通りに達成したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
計画の次年度として以下の検討を行う。 1.形態安定性の付与、及びフィブリル化防止を目指し、浸漬法により加工した布帛の形態安定性、および擦れ性評価を行う。また、ターゴトメーターを用いた実用的な耐スレ性評価法の精緻化の検討も継続的に進める。次に、パッドスチーム法による最適加工条件を検討する。さらに、-SS-結合の更なる導入促進を目指し、-SH基導入後、加水分解卵白処理を導入した-SS-架橋法の最適加工条件を検討する。「タンパク質化学修飾法」を用いてケラチン繊維の優れた特性である-SS-結合を、絹布帛のフィブリル分子間に積極的に導入(-SH基導入→酸化架橋法)することにより、絹の風合いを損ねずにしわ回復性・形態安定性、およびフィブリル化の防止などの機能性が付与できると期待される。ここで、-SH基導入試薬として、低分子で環状構造を有しているため、表面だけではなく、繊維(フィブリル分子間)内への-SS-結合の導入が可能と強く推定される2-イミノチオラン塩酸塩(2-IT)を用いて、形態安定性の付与、及びフィブリル化防止に繋げていく。 2.官能基がより多く含有され、更なる-SS-結合の導入が可能と推測される絹生機(未精錬絹布帛:セリシン含有)を用いて-SH基導入→酸化架橋法を行い、形態安定性、擦れ性などの機能性評価を行う。さらに、イオンクロマトグラフィーによりS導入量を定量すると同時にラマン分光法により絹布帛に導入された-SS-結合の同定を行い、絹布帛中への-SS-結合導入の反応メカニズムの究明を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に京都産業技術研究所に訪問し、研究打ち合わせを行う計画をしていたが、コロナウィルスの影響により、訪問することが困難な状況となったため、差額が発生した。次年度の旅費として使用することを計画している。
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