研究課題/領域番号 |
19K02329
|
研究機関 | 尚絅大学短期大学部 |
研究代表者 |
菊池 秀彦 尚絅大学短期大学部, その他部局等, 教授 (10301384)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | マクロファージ / 腸管 / 活性酸素 / エラグ酸 / ウロリチンA / 腸内細菌 |
研究実績の概要 |
本年度は、ザクロ等に含まれるエラグ酸及びその腸内細菌代謝産物であるウロリチンAがマクロファージの活性酸素産生能に及ぼす影響を調べた。 具体的には、ヒト単芽球様株細胞U937をレチノイン酸でマクロファージ様細胞に分化誘導する際に、培地にエラグ酸またはウロリチンAを添加し、その効果を活性酸素(スーパーオキシド)産生能を指標として判定した。その結果、20 μMエラグ酸が活性酸素産生能を抑制(レチノイン酸単独の70%)したのに対し、20 μMウロリチンAはこれを顕著に促進(レチノイン酸単独の175%)した。RT-PCR法で白血球の活性酸素産生系遺伝子群の発現を調べたところ、gp91-phox遺伝子の転写にのみ顕著な変化が認められた。gp91-phox遺伝子の転写はエラグ酸ではレチノイン酸単独の70%にまで抑制されていた一方、ウロリチンAの添加は逆にこれをレチノイン酸単独の160%まで増強していた。ChIPアッセイによって、エラグ酸はgp91-phox遺伝子プロモーター領域周辺のヒストンH3K9のアセチル化を阻害し、ウロリチンAはこれを促進することも明らかとなった。 これらの結果は、腸内細菌によるエラグ酸のウロリチンAへの変換が、腸管内マクロファージの機能に影響を及ぼす可能性を示唆するものである。近年、腸内細菌による生理活性物質の生産・変換が腸に与える影響が注目されているが、本研究結果もこの分野に新たな知見を提供するものである。この他、ダイゼインの腸内細菌代謝産物であるエクオールがレチノイン酸存在下で白血病細胞に強い細胞障害を示すことも明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要に記述したように、本年度も非常に興味深い知見を得ることができ、研究は概ね順調に進行している。特に、フィトケミカルの腸内細菌代謝産物(ウロリチンやエクオール)が、マクロファージに対してもとのフィトケミカルとは全く異なる生理活性を示すことを明らかにできたことは非常に有意義であったと考えている。これらの結果は、既に査読付き雑誌に論文として掲載済みである。
|
今後の研究の推進方策 |
フィトケミカルのマクロファージに及ぼす影響について、非常に多くの興味深いデータを得ており、現在更なる解析を進めている。フラボン類に関するデータを取りまとめ、近日中に論文を投稿する予定である。マクロファージ系での知見が予想以上に多く得られたため、その他の腸管細胞(特に大腸細胞)を用いた実験開始が予定よりも遅延したが、現在、フィトケミカルが大腸細胞活性酸素産生系に及ぼす影響についての解析も平行して進めている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
同一系統の実験でのデータ蓄積が極めて順調に推移したため消耗品等の追加購入の必要が最小限で済んだこと、新型コロナウイルス感染症拡大のために学会参加に係る旅費が発生しなかったことが主要因である。論文審査の際にリアルタイムPCRを実施するよう数名の審査員から指摘を受けたため、翌年度分と合してリアルタイムPCR装置を導入することを検討している。
|