研究課題/領域番号 |
19K02336
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研究機関 | 高崎健康福祉大学 |
研究代表者 |
今井 純 高崎健康福祉大学, 薬学部, 准教授 (30342918)
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研究分担者 |
坂井 隆浩 高崎健康福祉大学, 薬学部, 助教 (10418618)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 樹状細胞 / 腸内細菌叢 / Th状態 / 抗アレルギー効果 / 有用菌 / ユビキチン / 自然免疫 / スクリーニング |
研究実績の概要 |
本研究の目的は酒粕などの各種食発酵食品から、樹状細胞の抗原識別能力を利用し、抗アレルギー効果を持つ有用菌種を同定することである。令和3年度には、単球由来の樹状細胞(moDC)から作成された培養細胞(DC2.4)を用いて、酒粕から株化した乳酸菌のTh1誘導能力を各種の樹状細胞(DC2.4、cDC1由来の培養細胞であるmutuDC、マウスの骨髄から誘導したBMDC)を用いて検証した。これらの3種類の樹状細胞のサイトカインプロファイルは同等であり、有用菌によるTh1誘導能力の方向性は一致する。株化した乳酸菌を樹状細胞に添加すると、3種類全ての樹状細胞において、細胞内のユビキチン鎖の蓄積量は亢進し、IFN-β、IL-12などのTh1サイトカインを誘導する。しかし、ユビキチン鎖蓄積能力、Th1サイトカイン誘導能力、分泌能力は、3種類の細胞の間で大きく異なっている。特にサイトカインのBrefeldin Aを添加条件下(分泌を阻害)で測定した細胞内でのサイトカインの生産能力と抗IFN-β抗体、抗IL-12抗体を用いてELISAで測定したサイトカインの分泌能力の間に差異が現れた。現在、これらの差異が細胞間の反応性の違いによるものであるか、実験条件による誤差であるかの原因を解析するとともに、安定した結果を得るために試行錯誤を繰り返している。 この光学的定量法を活用した抗アレルギー有用菌の同定方法は「Imai J, Koike E, Sakai T. Detection of beneficial anti-allergy microbes by dendritic cells. The Allergy in Practice. (2021), 41(14) 1787-1792.」として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.株化した乳酸菌のTh1誘導能力は、3種類の樹状細胞系の細胞(DC2.4、mutuDC、BMDC)を用いて検証を行なっている。細胞内のユビキチン鎖の蓄積で検証したTh1誘導能力は、3種類の樹状細胞系の細胞全てで認められるが、蓄積の程度には差異が存在する。特にmutuDCでは、対照実験である乳酸菌を加えていない細胞内でのユビキチン鎖の蓄積に大きな差異を生じることがある。この現象に対する対策は今後の推進方策(1)に示す。 2.Th1サイトカイン(IFN-β、IL-12)誘導能力を、BFA存在下で細胞内に蓄積されるTh1サイトカインで検証した結果、3種類の樹状細胞系の細胞全てTh1サイトカイン(IFN-β、IL-12)誘導能力を確認したが、経時的、量的な差異が出現、実験間の差異も大きい。この現象に対する対策は今後の推進方策(2)に示す。 3.Th1サイトカイン(IFN-β、IL-12)生成能力を、ELISAによって細胞外に分泌されたサイトカインの量によって検証した。DC2.4、BMDCは分泌能力を示すが、 mutuDCはサイトカイン分泌能力が著しく低い。mutuDC のサイトカイン分泌能力は、細胞内に蓄積されるサイトカイン量をBFA存在下と非存在下との差異で比較した場合には、有意差を持って検出することができるが、ELISAでの検出には実験誤差が大きく、有為な差異とするには実験回数を増やす必要ある。この現象に対する対策は今後の推進方策(3)に示す。 4.個体レベルでの解析の進行が遅延している。これに対する対策は今後の推進方策(4)に示す。
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今後の研究の推進方策 |
1.cDC1に由来するmutuDCは、他の2種類の細胞に比べて植え継ぎに伴う細胞の損傷などによって活性化する自然免疫によって、Th1状態が強く誘導される。このため、細胞内のユビキチンの蓄積量のバックグランドに大きな実験誤差を生じている。また、培養時の細胞密度が高くなった場合も何らかの原因で損傷した細胞に由来すると考えられる分子によって、Th1状態が強く誘導されることがある。このため、この誤差を補正するために、実験の前後で分離した細胞のIκBの量を測定することで、実験のバックグランドを検証し、誤差の大きな実験結果を廃棄することで適正と考えられる結果を選択している。 2.1と同じで、実験の前後で分離した細胞のIκBの量を測定することで、実験のバックグランドを検証している。 3.細胞内でのサイトカインの合成量と分泌量が一致しないことについては、1、2と同様に事前に何らかの自然免疫系のセンサーが活性化されているために、測定前にサイトカインがすでに分泌されてしまっている可能性と、本実験で使用している乳酸菌によるTh1刺激の品質の差異による可能性などが考えられる。前者についてはIκBの量を指標とし、バックグランドの高い実験を除くことで、後者については、市販のエンドトキシン除去樹脂を使用し、菌体成分の混入によるバックグランドの除去を試みている。 4.個体レベルの実験では、乳酸菌によるTh1刺激定性的な炎症抑制効果は検出されるので、実験結果を定量化可能な規模の実験を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
マウスを用いた個体レベルの検証が遅れているので実験費用を確保すること、これに加えて本助成金によってえた実験結果を論文として出版するのに必要とされる投稿費用を確保するため。
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