研究課題/領域番号 |
19K02356
|
研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
前川 佳代 奈良女子大学, 大和・紀伊半島学研究所, 協力研究員 (70466415)
|
研究分担者 |
森 由紀恵 奈良女子大学, 大和・紀伊半島学研究所, 協力研究員 (70397842)
宍戸 香美 奈良女子大学, 大和・紀伊半島学研究所, 協力研究員 (00637861)
宮元 香織 北九州市立自然史・歴史博物館, 歴史課, 学芸員 (80435908)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 古代菓子 / 古代スイーツ / 平安スイーツ / 甘葛煎 / ツタ / 平安薫物 / 奈良あまづらせん再現プロジェクト |
研究実績の概要 |
本研究目的は、①日本古代菓子の実態解明(期限、伝来、実相、展開と変質の実証的研究)、②日本古代菓子の大陸での実態解明と東アジアの甘葛煎研究、③レシピの考証と再現、甘葛煎の味覚再現、甘葛煎を使用した古代菓子の再現、甘葛煎の薫物への利用、④日本古代菓子と甘葛煎の活用と普及である。②は世界的なコロナのパンデミックにより、本研究では断念せざるをえない。今年度は①と③を充実させることを研究推進方策とした。 今年度の実績は、まず代表者の前川佳代と分担者の宍戸香美の共著で『古典がおいしい!平安時代のスイーツ』(かもがわ出版)を刊行したことである。これは、上記目的の①を進めるなかで、③の研究成果を平安時代の菓子の一部に限ってまとめたものである。古代菓子のレシピ本であることから、④もできたと考えている。なお、奈良時代の古代菓子については、奈良の情報誌『月刊大和路ならら』で史料的考証とレシピを連載中である。 ③・④について、甘葛煎は、12月に東京、2022年2月に宮城県多賀城市、3月に島根県松江市で再現実験が実施し、列島各地で甘葛煎の普及活動ができた。東京では薫物屋香楽と協働して甘葛煎を使ったお香を作った。初年度から協働している岩手県平泉町の「平泉のかをり創造プロジェクト」は平泉のかをりを制作し販売も始めている。奈良では、人工の甘葛再現にも取り組んだ。 古代菓子は、古代スイーツ(歴史的考証をもとに現代の材料で再現した古代菓子)として、各地で普及活動を実施している。大阪府島本町では、水無瀬神宮で水無瀬殿スイーツを地元の方々と作り提供した。また平城宮大極門竣工に関連するイベントでは奈良時代由来の古代スイーツを作り提供した。令和4年度には奈良市内の飲食店で提供される。 このほかに12世紀都市平泉のトイレ状遺構から検出した土壌分析も実施し、平泉の食生活についての知見を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
子ども向けに刊行した『古典がおいしい!平安時代のスイーツ』は、平安時代の文学作品に登場する10種類の菓子のレシピを、それが登場する場面の原文と口語訳とともに紹介したもので、冒頭には平安時代の食事とお菓子についての概説を載せ、各文学作品の解説やコラム、巻末にはレシピの典拠の説明と参考文献を載せた。小学校5年生以上を対象とするが、写真も美しく大人でも楽しめるものになった。この本の出版は、新聞やメディアでも注目され、数多く取り上げられ、古代スイーツという言葉の認知による古代菓子の再現活用となったと思う。 甘葛煎の薫物利用として、東京の薫物屋香楽と協働して再現に取り組み、出来上がった甘葛煎を使ったお香も作った。特有の香りがない甘葛煎はお香のつなぎとしては香材の邪魔をしないことから最適であることがわかった。 甘葛煎の味覚再現は、奈良市内の飲食業者と奈良県農業研究開発センターの協力を得て、これまで再現してきた奈良の甘葛煎の成分分析と味覚センサーによる甘味の再現に取り組んだ。まずは奈良の甘葛煎の味を人工的に再現することを目指している。 普及活動としては平泉では「平泉のかをり創造プロジェクト」が独自に甘葛煎を再現しているし、多賀城市でも甘葛煎や古代スイーツの利用が考えられており、また大阪府島本町の住民グループも地域振興として継続的な取り組みを続けている。奈良市内の飲食店では、古代スイーツを提供する段階になった。古代スイーツの認知度ができつつあると思う。 以上から、この評価とした。
|
今後の研究の推進方策 |
上記①の古代菓子の実態解明の研究成果として、学術雑誌の『古代文化』に古代菓子特集号としてまとめる予定である。 代表者の前川は、総論と平安時代の菓子についてまとめる。研究分担者の宮元香織は、奈良時代以前の菓子ということで古墳出土の菓子状副葬品について、宍戸香美は奈良時代の菓子についてまとめる。森由紀恵は密教で使われた菓子について、特に清浄歓喜団を扱う。研究協力者の島原弘征(平泉文化遺産センター)は、12世紀平泉で検出されたトイレ遺構の集成と今年度実施した土壌分析結果の傾向を踏まえた都市平泉における食生活とトイレの使用形態について考察する。また奈良女子大学大学院博士後期課程の土居規美は、奈良女子大学構内遺跡出土の調理具について報告する。これらに必要な研究を実施する。 ③と④については、コロナの感染対策を行いながら、全国の希望される地域に甘葛煎や古代スイーツ作りの普及活動を実施していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
全国的なコロナの再流行で特に行政機関所属関係者は出張規制が厳しく、予定していた調査が満足にできない状況であった。本研究の成果を令和4年度の『古代文化』の菓子特集号として公表が決まったため、その成果のための研究費として計画している。 令和3年度に実施できなかった平泉のトイレ遺構残りのサンプルの土壌分析の分析費用、次年度以降に甘葛煎再現実験や古代スイーツ作りに協力していただける地域や機関に打ち合わせにいく費用、PCが使用できなくなったための買い替え、古代スイーツのロゴや甘葛煎の簡単な説明のリーフレットの印刷費用などを考えている。引き続き、オンラインで作業できる環境を整えたい。 新規助成金は、菓子の提供法を考えるもので、古代の史料類の作業用書籍購入や列島各地の研究協力者との打ち合わせの旅費、また冬の各地での甘葛煎再現実験の旅費などを考えている。
|
備考 |
東京新聞2021年10月3日「作って食べて古代体感『古典がおいしい!平安時代のスイーツ』」、毎日新聞2021年10月8日「けずり氷やいもがゆ・・・平安時代のスイーツ再現、レシピ本出版 奈良」、しんぶん赤旗2021年11月20日「平安スイーツをどうぞ 古典レシピ 作って食べて古代身近に」、朝日新聞2021年11月26日「平安時代のスイーツ、めしあがれ 奈良女子大の協力研究員2人が本に」
|