研究課題/領域番号 |
19K02360
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
杉山 靖正 実践女子大学, 生活科学部, 教授 (90347386)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 未利用・低利用資源 / 摘果 / 機能性成分 / 伝統発酵食品 |
研究実績の概要 |
まず、昨年度に引き続き、新規発酵食品の材料となり得る摘果果実(未熟果実)を見い出すため、摘果果実に含まれる機能性成分を明らかにする探索研究を行った。本年度は未熟なさくらんぼを試料とし、これまで同様に機能性成分を単離し、得られた化合物を機器分析することでその化学構造を決定した。その結果、さくらんぼ未熟果実には機能性成分としてクロロゲン酸を多く含むことを明らかにした。すなわち、新規の機能性発酵食品の材料として摘果さくらんぼも利用可能であることが示唆された。 続いて、昨年度までに発酵食品の材料に適することが推定された摘果りんごを使い、発酵食品の製造を試みた。まず、蒸した大豆に種麹を加え30℃で48時間培養し豆麹を作製した。次に、摘果りんご(品種:ブラムリー)に20%食塩水を加えミキサーで細かくした後、作製済みの豆麹と乳酸菌を加えて発酵を開始した。107日目には酵母を加え、さらに発酵を続けた。発酵開始から183日目に発酵液を濾過および遠心処理後、火入れを行った。これを4℃で1週間静置後、再度遠心処理して上清(ブラムリー醤油)を得た。同様に摘果りんごを加えないで調製した発酵液を対照試料(大豆醤油)とした。ブラムリー醤油の抗酸化活性をDPPH試薬を用いて測定したところ、ラジカル捕捉率が45.1%であり(大豆醤油のラジカル捕捉率は43.5%)、摘果りんごを材料の一部とすることで機能性が強化された醤油を製造できることが証明された。また、溶媒分画後の試料を活性測定したところ、ブラムリー醤油には中性および酸性の抗酸化物質が含まれることが明らかになった。 さらに、伝統発酵食品に含まれる機能性物質に関して、近年製造されるようになった大豆を原料の一部に用いた黒酢を対象に探索研究を行った。その結果、大豆の含有成分に由来するイソフラボン類に加え、テトラヒドロハルマンを多く含むことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
摘果果実を用いた発酵食品の製造を試み、材料の一つとして摘果りんごを加えることで抗酸化活性に優れた醤油を製造できること、さらに含まれる抗酸化物質が中性および酸性物質であることを明らかにできたため、本研究はおおむね順調に進展していると考える。しかし、醤油の製造時に摘果りんごを加えることで高まった抗酸化活性は想定よりも低い上昇率であったこと、含まれる抗酸化物質の特定までには至らなかったことから、発酵条件を再検討し、機能性について物質レベルで解明するため、継続して研究する必要があるものと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
新規発酵食品として、今年度は摘果果実を材料に用いた発酵食品を製造し、出来た発酵食品の機能性を調べたところ、抗酸化活性に優れた発酵食品の製造に繋がる成果は得られたものの、機能性のさらなる強化や含まれる物質の特定などの課題が残った。そのため、次年度は(1)製造時における発酵条件を再検討する、(2)材料として使用する摘果果実の種類を増やす、(3)製造した発酵食品に含まれる機能性成分を特定することを優先する。 また、伝統発酵食品として大豆を原料の一部に用いた黒酢からの機能性成分の探索研究も継続する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は研究の遅れの挽回に努めたが、新型コロナウイルスの影響を受け、研究規模(取り扱う試料の種類や数など)を縮小せざるを得ず、結果として次年度使用額が生じた。本研究の計画当初の目的を達成するためには、試料数を増加すること、発酵条件を再検討すること、物質レベルで機能性を解明することが必要であり、研究期間を延長することになった。そのため、次年度の助成金も予定通り発酵食品の製造と成分分析、機能性研究について必要な物品の購入に使用する予定である。
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