研究課題/領域番号 |
19K02366
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研究機関 | 武庫川女子大学 |
研究代表者 |
澤渡 千枝 武庫川女子大学, 生活環境学部, 教授 (70196319)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 弾性素材 / バクテリアセルロース / 複合化 / 化学修飾 / 環境 |
研究実績の概要 |
本研究は,ポリウレタンに匹敵する弾性衣料素材を,廃棄後には自然界で微生物によって資源化される,バイオマス資源によって創出することを目指してスタートした.ポリウレタンは広汎に利用される弾性素材であるが,熱・水分・塩素によって脆化し耐用年数が短いだけでなく脆化物が微細なプラスチックとなって環境を汚染することや,ポリウレタンによる皮膚障害も懸念されているからである.基材とする試料にはバクテリア(酢酸菌)が作るセルロース繊維(ナタデココで知られるバクテリアセルロース,以下BCと略す)のペリクルを用いた.BCペリクルはいわゆる塑性ゲルで,圧力によって凹ませるとそのままでは元には戻らない.また,そのペリクルの3次元の網目構造に含まれる水をそのまま乾燥するとBC繊維間や分子鎖間に水素結合が生成し,紙のような硬いシートになってしまう.それらを阻止して弾性回復率80%を目標値とし,ウレタンに近い弾性材料が得られるかを,初年度から引き続き検討してきた.検討手法は初年度と同様に2つの方向からのアプローチで,1)水素結合の形成を阻止し,弾性を導入する方法の検討,2)BCと複合材との親和性を高めるためのBC繊維の化学修飾条件の検討,である.1)については,ポリビニルアルコール(PVA)溶液による直接複合化後,PVAのゲル化および乾燥条件の制御によって複合化物の弾性向上を確認した.弾性はPVAの重合度,溶媒組成,乾燥条件によって異なる値を示した.これらについては,2件の学会発表実績(ポスター発表.内1件はR4年7月に口頭発表確定)がある.2)については,R1年度は綿布を試料とした検討にとどまっていたが,R2年度からはBCを用いた検討にまで進め,R3年度には反応効率を低下させることなく基材の損傷を10%以下に留めることができた. これについては,1件の学会発表(R4年6月に口頭発表確定)がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
BCのペリクルを基材として,弾性回復率80%を目標値としてシート状の試料で弾性素材の創成を検討した. 1年目の研究に引き続き,研究計画に従って1)基材のセルロース繊維の網目に含浸して複合物を得る手段および条件の検討,2)複合性を高めるためのセルロースの 化学修飾の2つの方向から検討した. 1)については,ポリビニルアルコールを複合材とした場合について,引き続き検討したが,他の複合材については検討を進展させていない.2)については,化学修飾の反応条件と基材の損傷,反応効率との関係を検討し,実際にBCへの検討へと進めたが,1)と2)をあわせて3件の学会発表にとどまっている. 上記の通り,当初の計画に従って順次結果は得られているが,研究の進行が予定より遅れており,論文が未発表であることから,(4)の自己評価とした.
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今後の研究の推進方策 |
プラスチックごみの減少と,持続可能な社会に貢献しながら,肌にも優しい衣料品によって衣生活環境の向上に役立てるために,ポリウレタンに代替するセルロース素材を完成させることが長期的な目的である.本研究期間内の目標はポリウレタンに代替する素材をセルロースで創れるか,を見極めることである. 当初の計画では2020年度中に,BCのペリクルを基材として,溶媒の検討,BCの複合化と乾燥過程におけるBC同士の凝集阻止,植物セルロースへの軽度な化学修飾およびその含浸方法の検討を行い,得られる創成物の構造と弾性との関係を計測・ 解析を済ませ,さらに,化学修飾時の置換基をさらに工夫し,複数の手順を組み合わせて繊維間の水素結合制御にフィーバックする予定であったが,計画最終年度にあたるR3年(2021年)度までを複合材の検討や,複合化後の構造と弾性との関係の計測・ 解析に費やした.研究期間の延長が許可されたR4年度中に,これまでの結果を整理し,複数の手順を組み合わせて繊維間の水素結合制御を検討する. 研究終了時には,ウレタンに代替する素材をセルロースで創出するに際しての限界と可能性を明らかにする.さらに今後に続く研究課題として,より具体的な衣料素材としての分析・評価に向けた研究グループを組織し共同研究に移行する計画である.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響が大きい.特に2年目の2020年度には計上していた研究補助費(院生および学生への謝金)が,登学禁止などの措置で発生しなかったこと,および2年目,3年目の学会発表形式がオンラインに変更されたことによる出張費の支出ゼロなどが影響している.加えて,2021年夏に主力装置が故障し修理不能となったために,研究ペースが落ちたことや,オンライン・オンデマンド授業対応により,教育関連のエフォートが研究計画時の3倍近くに達したことも,研究の進行の妨げとなり,その結果,論文執筆とこれに伴う掲載費用が生じなかった.このため,やむなく研究機関の1年延長を申請し受理された. R4年は延長の結果得た最終年度であり,環境を整備し直し,さらに研究形態の微修正を行ったので,遅れを取り戻しながら本来の計画を推進する.
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