本研究は,ポリウレタンに匹敵する弾性衣料素材を,廃棄後には自然に還るバイオマス資源によって創出することを目指してスタートした.ポリウレタンは広汎に利用される弾性素材であるが,熱・水分・塩素によって脆化し耐用年数が短いだけでなく脆化物が微細なプラスチックとなって環境を汚染することや,ポリウレタンによる皮膚障害も懸念されるからである. 長期的な目的として,プラスチックごみの減少と,持続可能な社会に貢献しながら肌にも優しい衣料品による衣生活環境の向上を目指しているため,試料としてセルロースを主体とした素材に着目した. 基材とする試料にはナタデココで知られるバクテリア(酢酸菌)が作るセルロース繊維(以下BCと略す)のペリクルを生合成して用いた.BCペリクルはいわゆる塑性ゲルで,また,そのペリクルの網目構造に含まれる水をそのまま乾燥させるとBC繊維間や分子鎖間に水素結合が生成し,紙のような硬いシートになる.それらを阻止して弾性回復率80%を目標値とし,ウレタンに近い弾性材料が得られるかを検討した.手法は2つの方向からのアプローチ,1)水素結合の形成を阻止し,弾性を導入する方法の検討,2)BCと複合材との親和性を高めるためのBC繊維の化学修飾条件の検討,を試みた.R4年度は1)について,ポリビニルアルコール(PVA)溶液による直接複合化におけるPVA濃度と,複合化後の凍結解凍条件をさらに検討した結果,得られた試料において,40%の圧縮変形を20回繰り返した後の弾性回復率が80%を維持したことから,ポリウレタンと同等までには到達していないが,代替する素材をセルロースで調製できる可能性を示すことができた.
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