研究課題/領域番号 |
19K02382
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研究機関 | 甲南女子大学 |
研究代表者 |
小野寺 美和 甲南女子大学, 人間科学部, 講師 (90523762)
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研究分担者 |
谷 明日香 四天王寺大学短期大学部, その他部局等, 講師 (30413446)
竹本 由美子 武庫川女子大学, 生活環境学部, 講師 (90581926)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 蓄光糸 / 蓄光布 / ストレス / 唾液アミラーゼ / りん光輝度 / 心理的影響 / SD法 |
研究実績の概要 |
暗所において高視認性を発揮する蓄光材は、災害時の避難誘導灯にも活用されている。しかし、衣服などの繊維材料にはほとんど使用されていない。また、光には人を癒す効果があるとされることから、本研究では、蓄光糸で蓄光布を製織し、蓄光布の光が人の生理・心理反応に与える影響を明らかにすることを目的とする。 本実験では、4種類の異なる蓄光糸で製織した蓄光布について、JIS Z 9107を参考に照度200lxの常用光源蛍光ランプD65(光源1)で20分間励起させた後、暗闇で曝露させた蓄光布のりん光輝度(発光の強さ)を測定し、りん光輝度が最も高い蓄光起毛布を実験試料として選定した。次に、20代の女子大学生23名を被験者とし、実験前にストレスを負荷した後、恒温恒湿の暗所環境下でりん光状態の蓄光起毛布を3mの視認距離で10分間提示した。実験前後のストレス状態を確認するため、唾液アミラーゼ活性値を測定し、実験後に7段階SD法による主観評価を実施した。これらの被験者実験は、光源1またはタングステンランプ(光源2)によって励起された蓄光起毛布で実施し、異なる光源で励起された蓄光布のりん光が、生理・心理反応に及ぼす影響について検証した。 その結果、主観評価では「見えやすい」、「軽快な」で有意差が見られたが、光源による評価の違いはほとんどなく、「安らぎのある」、「落ち着く」などでも高評価が得られた。光源1より光源2で励起した蓄光起毛布の方がりん光輝度は有意に高く、唾液アミラーゼ活性値は低下した。りん光輝度が高ければ、りん光の緑色をより強く知覚することになるため、安らぎをもたらす緑色の効果から、光源2で励起したりん光の方が唾液アミラーゼ活性値が有意に低下したと考えられる。 以上のことから、蓄光材のりん光には、人に安らぎをもたらす可能性があると示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は光源の違いによる蓄光布のりん光輝度とヒトの心理的影響について、特に、人間の視覚器官は太陽光に対応してなりたっているが、現在までに、白熱灯や蛍光灯、さらに質のことなる様々な光源が開発され利用されており、光源の質によって、ものの見え方が違ってくることから、色彩色差計や、「JIS Z8720 測色用標準イルミナント及び光源」を含む「標準光源ブース」を用いて蓄光布に照射したときのりん光輝度について検討を試みた。なを現在、蓄光に関する繊維関連の JIS 規格は無い。従って、本研究ではJIS Z 9107「安全標識-性能分類における性能基準及び試験方法」に従い測定を行った。まず、各種蓄光糸を用いて蓄光布に製織することで、より高いりん光輝度を得ることができるのか検証をおこなった。その中から最も高いりん光輝度が得られる蓄光布を用いて、そのりん光の生理・心理的効果を明らかにするため、唾液アミラーゼ活性値を用いたストレス評価による客観評価と、SD法主観評価による被験者実験を行った。これら唾液バイオマーカーを用いる被服衛生学関連の研究だが、すでに両者【武庫川女子大学繊維材料学研究室と四天王寺大学短期大学部】の専門家に当該分野に関するバックアップ、情報収集および試料収集に協力をお願いしており、計画していた通り、助言をいただき、実験を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究として、①蓄光布の風合い測定(力学的特性と表面特性)を、蓄光布の性質・性能を客観的な測定値を用いて導き出す KES 計測システムを用いて、布の力学的性質(引張り・曲げ・せん断・圧縮変形に対する性質)と布の表面特性(表面摩擦・表面粗さ・布の厚さ)の計測を試みる。引張特性や曲げ特性などを数値化し、ドレープ係数 (drape factor) や、こし、ぬめりなど、最終的に風合いの定量評価を検討する。次に、②「JIS Z9107」に相当する蓄光布を用いた衣服設計を考える。現在、蓄光に関する繊維関連の JIS 規格は無いため、JIS T8127「高視認性安全服」の規格(着用者の存在について視覚的に認知度を高める「衣服」であり、蛍光地と再帰性反射材で構成された「衣服」:主に人命救助する側)を参考に、バーチャルファッションコーディネートソフト4DboxPLANS FULL】を用いて、成人女子用衣料のサイズと、成人男子用衣料のサイズに従って簡易的な衣服を作製する。人命救助される側が欲し、且つ好感が持てるデザインを検討するために、人体体表の区分と方位に従ってどの部分に蓄光布を取り入れたいかを統計ソフト(SPSS)を用いて検討する。さらに③「JIS Z9107」に相当する蓄光布を用いた視認性の高い蓄光服の設計指針を得る為に、前述した②で得られたデザインの結果を基に、実物大の蓄光服を、アパレル CADを用いて作製し、身体的、生理的な快適さ(着心地にかかわる性能、被服構造・着装方法、衣服内気候)を『服装により生起する感情状態尺度』を用いて SD 法主観評価測定値から検討する。また、④蓄光糸を一本ずつ染色する「先染」と、蓄光布(織物や編物のような反物)を染色する「後染」に着目し、各々含まれる染料の含有量から、りん光輝度測定値に及ぼす影響を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度1月から3月にかけて行う予定であった企業との試作品製作の計画が新型コロナウィルスの影響で中止になり予算を使い切ることが出来なかった。次年度は、試作品製作や蓄光糸の企業との打ち合わせ、また防災関連のセミナーへ提供する資料作成などに助成金を用いていく予定である。
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