研究課題/領域番号 |
19K02384
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研究機関 | 武庫川女子大学 |
研究代表者 |
牛田 智 武庫川女子大学, 生活環境学部, 教授 (40176657)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | インジルビン / インジゴ / 藍 / 建て染め / 還元 / 還元糖 |
研究実績の概要 |
藍植物に含まれるインジゴの前駆体であるインジカンから生じるインジゴの異性体である赤色色素のインジルビンは、還元によって水溶性になり酸化によってインジルビンに戻る、という性質を有しているので建て染めは可能である。しかし、インジルビンの還元による染色については、十分研究されていない。そこで、インジルビンの還元の特徴を明らかにすべく、自ら合成したインジルビンの、還元糖を用いての検討を行った。 還元糖として、グルコース、ラクトース、フルクトース、キシロース、マルトース、セロビオース、アラビノース、ガラクトースを用いて、インジルビンを還元し、還元体がどの程度生成したかを、綿および絹を染色することで評価した。いずれの糖による還元でも、綿は極めて薄いピンクに、絹はそこそこのピンクに染まった。糖の違いとしては、ラクトース、セロビオース、ガラクトースがよくなかったものの、他の糖ではほぼ同程度の還元が起こった。 還元糖による還元にはアルカリが必要であり、水酸化ナトリウムを用いたが、強アルカリなので、実用的ではないことから、炭酸ナトリウムも検討した。しかし、還元は少ししか起こらなかった。また、この還元には比較的高温が必要で、常温ではほとんど還元は起こらなかった。温度の効果として、60℃と80℃を検討したが、80℃の方がよく染まった。 さらに、インジルビンが還元された状態での安定性を調べた。インジルビンの還元体は空気酸化により消失しやすいのは当然であったが、アルゴン雰囲気下で空気酸化を避けると還元体は12日間は安定に保つことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
藍植物から条件によっては多く生成するインジルビンは、藍植物によって赤みの染色を行うことができることから、インジルビンの還元による染色の特性を明らかにしたいと考え、まず、通常はインジゴしか含まない藍植物の乾燥葉に対して、インジルビンが多く含まれる、インドアイ乾燥粉末(藍熊染料株式会社より入手)の建て染め(ハイドロサルファイトで還元しての染色)を、様々な条件を変えて行った。温度やpHを変えると、染色結果(色味)が異なることを期待したが、綿はインジゴが優先的に(青みの色に)染色され、絹はインジルビンが優先的に(紫みの色に)染色されるということに大きな違いは生じることはなかった。 インジゴとインジルビンの選択的な還元の可能性を前提に、様々な還元糖による合成インジルビンの還元に関して、様々還元条件を変えての詳細な検討を行った。その結果、強アルカリ性下、高温の条件で十分還元が可能であることが明らかとなった。また、還元状態は酸素が無ければ、長時間維持できることも確認できた。 コロナ禍により、実験に費やす時間を十分確保できなかったことにより、進捗状況はやや遅れており、予定していたインジゴとインジルビンの混合物の選択的還元を行う検討(どちらか一方が優先的に還元できる条件を見出す検討)には入れていない。ただし、これまでの、インドアイ乾燥粉末および合成インジルビンの還元を検討により、各条件によるインジルビンの還元の特徴や還元のされやすさの違い等は明らかになっており、次につながる有益な結果は得られている。
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今後の研究の推進方策 |
藍植物による染色は、他の天然染料では染めることができない青色をインジゴによって染めることが重要ではあるが、最も代表的で身近で、誰もが栽培できるタデアイなどの藍植物から赤みの色や紫色などの他の色を染色することができれば、藍植物の価値も高まると考えられ、藍植物からインジルビンを多く生成させるとともに、その色素を容易に染色する条件を明らかにし、一般人も利用できるような実用化をめざしている。 インジルビンの還元について、ハイドロサルファイトやグルコースなどの還元糖が使えることは明らかにできたが、藍植物から色素を生成させた場合、インジゴとインジルビンの混合物となる。したがって、そこからインジルビンのみを染色するには、インジゴとインジルビンのどちらかを選択的に還元することが求められる。このことで同じ材料から青色を染めたり紫色を染めたりすることにつながる。そこで今後は、その混合物から優先的にインジルビンを還元させて染色する方法が無いかを探求したい。あるいは、インジゴを優先的に還元させ、インジルビンを溶解させないで残し、その残渣で染色するということでもよい。そのため、インジゴやインジルビンの還元のされやすさが還元剤の種類や条件(温度、pH、濃度など)によって異ならないか、還元剤の種類を増やしたり、それぞれの還元剤による還元条件を変えて検討する。また、還元剤の量をインジゴとインジルビンの混合物の一部が還元される程度の少ない量にすることで、どちらか一方の還元が優先されないかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
このテーマで用いる材料や薬品には高価なものはあまりなく、また使用料も少なかったこと、また、器具類についても、安価なものばかりであったことによる。次年度は、より厳密で詳細な実験条件での検討を行うので、実施する実験数が増加することから、そのために必要な薬品類や器具類の購入に充てる。 また、研究発表については、コロナ禍のため、できなかったり、遠隔であったことから、旅費は不要であった。次年度はまだ未確定ではあるが、遠地での研究会の開催が模索されており、実際に行われる場合にはその旅費にも充当したい。
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