これまでの研究成果として、人間存在において公共性が内在していることを生物学や脳研究、さらには政治哲学や精神医学の成果を援用しながら明らかにしてきた。人間は生物としての弱さをむしろ力として進化してきた動物であり、その際個人の力ではなく共同性を大切にすることで進化してきたことが明らかになった。その意味で人間はコミュニケーションする存在なのであり、道徳性(倫理)の根底として、共同性を維持することを大前提として考えなければならないことが明らかになった。だが実際現代社会においては、人間のもう一方の本質であると思われる自己中心性が強まってきていることも明らかにしてきた。新自由主義社会を支える哲学が強くなってきている。またハンナ・アーレントのアイヒマンに関する思想等に学びながら、現代社会が強い者に対して迎合する傾向についても明らかにしてきた。 これらの研究からわかってきたことは、自己に内在する公共性を喚起するためには、共同性を維持するような場を作りだしていくことが必要で、このような場を触媒のようにして道徳性を育てることが可能になるということであった。 本年度は、中央教育審議会で答申として出された居場所としての学校、さらには個別最適な学びと協働的な学びの両立のために、学校において対話の場を形成することの重要性を石牟礼道子の共同体のとらえ方やオープンダイアローグにおける対話に学びながら明らかにした。本年度の研究成果として、道徳性を育てる際の対話や共同性を支えるキーワードが対等性と異質性(多層性)にあることが明らかになった。
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