本研究において、ナチス・ドイツのペスタロッチ・フレーベル・ハウスの活動の分析を通じて、ナチス期に幼児教育がその勢力を拡大させていったことが明らかになると同時に、幼児教育における母性イデオロギーや中産階級的道徳がナチスの思想に歓迎されたことが明らかになった。この結果は、母性イデオロギーや中産階級的道徳のみでは、全体主義の動きに対して迎合するものとなりうる危険性があることを示すものであると言える。この成果から本研究の意義は、子どもに対する母親の役割の強調や、社会道徳の教育を強調するような今日の教育のあり方に対して、それが持つ陥穽を示唆することにより、再検討を迫る問題提起をした点にあると言える。
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