本研究は、京都市の小学校教諭であった西田秀雄(1913-1992)が実践した絵日記指導について以下の五つの観点による分析を目指した。1.西田が1950年代に実践した絵日記指導資料の収集とアーカイブ化。2.絵日記資料中に残された西田の赤ペン指導の内容に焦点をあてた検討。3.絵日記が作成されたのと同時期に発行されていた童詩雑誌『きりん』に掲載された西田が指導した児童作品の調査。4.西田の絵日記指導と『きりん』掲載作品との関係性の検討。5.絵日記資料を提供してくださった西田の元教え子の方にインタビューを行い、西田の絵日記指導についてのオーラル・ヒストリー研究を行う。これらの研究通して、絵日記という媒体を通した子どもと教師の学びの循環という実践の構造を明らかにすることを目指した。しかし、新型コロナウィルス感染症の影響で、絵日記資料提供者への調査が困難になった。そのため、西田の絵日記指導の調査として、童詩雑誌『きりん』に掲載されていた西田が指導した絵日記文章の検討を重点的に行うことへ切り替えた。 以上の観点で西田が行った絵日記指導を分析した結果、西田による絵日記という媒体を通した西田の赤ペン指導によって子どもと教師が対話的にやりとりしながら子どもの表現力を養う学びの循環を構成していたことが明らかになった。また、絵日記指導によって子どもたちの表現力が養われ、数多くの絵や詩、綴り方の制作が行われ、それらの成果物が童詩雑誌『きりん』に数多く掲載されてたことから本誌は出版物として広く子どもたちの表現作品を周知するという役割とともに当時の子どもたちの表現力を涵養する場としての役割も担っていたことがわかった。これら子どもと教師の対話的な学びの実践は現代における主体的で対話的な深い学びを目指す実践資料ともなりうるといえよう。
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