研究課題/領域番号 |
19K02398
|
研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
長廣 利崇 和歌山大学, 経済学部, 教授 (60432598)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | アントレプレナーシップ / 企業家史 / ゴム底靴 / 丁稚 |
研究実績の概要 |
丁稚経験を通して,独立開業してゴム底布靴・ゴム底革靴の製造事業者となった松田一郎のケース・スタディについて検討した。小学校卒業後に丁稚・徒弟となり技能を身につけた上で起業した企業家は,久保田権四郎,本田宗一郎,松下幸之助などが挙げられるが,いずれも事業を成功させた著名な企業家の事例が研究されている。従って,今まで検討されてこなかった松田の事例によって,企業家の成功と失敗の理由を検討することは,企業家史において重要な意味をもつ。 松田一郎(1894ー1966)は,1920年代に未加硫ゴムを加硫してゴム底を成型するとともに,布もしくは革の甲部をゴム底と圧着させる加硫圧着式製法を開発し,1950年代にこの技術によって事業の成功を収めたが,経営不振によってすぐに破綻した。松田の活動についてみる意義は,松田の加硫圧着技術の開発が世界的にみても早期に取り組まれていたからである。松田は,1926年に世界で初めて加硫圧着方式によるゴムと布との圧着に成功したと述べているが,外国で特許を取得したのは,1959年になる。他方で,ヨーロッパでは,スペインのCEME社のメディアーノ(Gonzalo Mediano Capdevila)によって,1940年代に加硫圧着技術が開発され,1954年にイギリスのクラーク社によって大量生産技術に改良された松田とメディアーノは,技術交流が全くなかった。誰が最も早くこの技術を開発したかということよりも,なぜ松田がこの技術を開発できたのか検討した。 なお,"Education in Prewar Japan: From Apprentice to Entrepreneur"として,ディスカッション・ペーパー(Working Paper Series ,Faculty of Economics, Wakayama University(2021年6月)を公表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルス感染症の影響によって,資料の調査が制約された。近隣の資料館への訪問や遠隔複写サービスによって,収集可能な資料は手に入れたが,現地調査や関係した人への聞き取り調査が制約された。聞き取り調査に関しては,オンラインコミュニケーションツールを使用しない人が多かったため,対面での調査が必要とされた。これに加えて,勤務先での改修移転作業に時間を要したため,総じて「やや遅れている」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
第1に感染状況に注意しながら現地調査を進める。とりわけ,製靴事業等に携わった人への聞き取り調査を行い,文書資料で明らかにされなかった歴史事実を収集する。第2に高等教育を卒業していない企業家に関して詳細に検討し,「戦前期日本における高等教育と実業家」に関する知見を深める。第3に,高等教育を卒業した者がどのような実業に就いたのかを一次資料を使用して検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の影響によって,資料の現地調査が制約された。そのため次年度使用額が発生した。この使用計画は,調査旅費と必要な文献購入費にあてる。
|