本研究の目的は、教職における長時間勤務・多忙化と生活時間の貧困化の改善を図りつつ、専門職としての教職の専門性の高度化とウェルビーイング(wellbeing:WB)の向上とを同時に果たしながら、チームとしての学校づくりを効果的に展開することに資する研究的知見を創出・提示することである。 2023年度は、主として次の3つの活動を行った。 ① 前年度に引き続き、UNESCOやOECDの動向をレジリエンスやWBのディスコースの観点から捉え直した。②国内の学校にてカリキュラム開発と教師のWBの実現を図っていると考えられる学校を訪問し、インタビュー等を行った。③前年度と同様に、オランダ王国にて複数の学校を訪問してインタビュー調査や聞き取り等を実施し、学校づくりとWBとの関係についてのデータを収集した。特に、オルタナティブ教育を推進している複数校の学校を訪問した際、教師同士の同僚性のみならず、カリキュラムを随時改善しながら、教職の専門性の向上を図るProfessional Developmentの機会も保障されていた実態を垣間見ることができた。以上の成果を踏まえた上で、本研究の成果としては、以下の点が明らかになった。①WBをめぐる解釈の多様性を尊重した共通善(common good)の視点に基づく「ヒューマニズム的アプローチ」のディスコースと弁証法的観点が、教職の脱専門職化への対抗軸となりうる。②コロナ禍を機に学校の業務等を大幅に見直すなどして認識と行動の転換を図ることによって、自校のカリキュラムを教師たち自身で開発する「学校を基盤とするカリキュラム開発(SBCD)」と教師(学校)のWBの向上が両立する可能性が見出された。今後の課題は、特に②の点を、より学術的・研究的アプローチにより、カリキュラム・オーバーロードの克服と連動した教師(学校)のWB向上の実現に資する知見を見出すことである。
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