研究実績の概要 |
本研究ではアメリカ合衆国(以下アメリカ)において、教員養成を主に担ってきた大学(高等教育機関)に目を向けた。1970年代から2020年代までの全米の大学における総「学位(degree)」発行数とその中で「教育学」の学位の数、割合等を調べたところ、1970年代には総学位数の21.0%が「教育学」であったのに対し、1980年代に入るとその数、割合とも低下し、2010年代に入ると4%台で推移していることが明らかとなった。1970-71年度に「教育学」の学位取得者数が176,307であったのに対し、2020-21年度には89,398とおおよそ半減していた。大学教育全体における「教育学」教育の地位低下が過去40年間を通じて進行しているということができる。例えば、事例州として設定したテキサス州では、1990年代初頭に州議会議員から「教育学」の学位が大学教育としての質を備えていないという批判が起こり、大学における教員養成の見直しが進められた。その背景には重化学工業の興隆に対応する学部教育の充実やそのための学位創設取得者数の増加が政策的に図られたのであり、同州の大学では主専攻としての「教育学」は廃止されるに至った経緯を明らかにした。さらに「教員不足」が唱えられながら、教員養成を担ってきた高等教育全体の中で「教育学」学位数の減少が進行したことも、伝統的な教員養成ルートに直接的かつ間接的な影響を及ぼしたということを指摘した。付言すれば、「教育学」の軽視の背景には、他の専門的な学位を有していれば、それに関する学校教育における科目を担当できるという前提がある。具体的には理学や工学の学位を有していれば算数・数学、理科などを学校で教えられるという前提である。 以上のように、本研究を通じて社会経済的背景が、大学のガバナンスに影響を及ぼしたということを事例をもって明らかにすることができた。
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