本年度は、教職選択を規定する要因としての教員の労働環境に関する考察を行った。具体的には、既存研究の知見の整理及び方法論的課題の指摘を行い、紀要論文において発表した。加えて、労働環境の中でも最も重要な要素である労働時間が教員の主観的厚生・キャリアへの態度に及ぼす影響について、2次データを用いた分析を行った。前年度に議論した不均一分散に基づく識別法を適用することにより、異質性・非線形性を考慮した長時間労働の因果効果を明らかにした。得られた結果については論文化・投稿の途上にある。 研究期間途中で事業を廃止することとなったため、当初計画した研究は新規研究課題において継続することとなったが、これまでに以下の2点に関して成果を得た。 第1に、教員供給・教職選択に関する既存研究における因果推論に関する方法的問題について一定の解決を得た。条件付き不均一分散を用いた識別法を発展させることで、従来の識別戦略を適用できない教員関連のデータの分析において、未観測交絡要因によるバイアスへの対処を可能にした。このことにより教員のキャリア選択および厚生に関する実証分析を前進させ、後者の分析では労働環境としての労働時間の影響について、日本的公立学校制度の特質から派生する異質性を含めて明らかにした。 第2に、擬似パネルデータを用い、労働環境に関わる国レベルの制度・政策(労働時間、給与水準、職務に関わる制度・政策)が教職選択に及ぼす影響を分析した。成果として各制度・政策が強く作用する潜在的教員参入層のセグメントを明らかにすることができた一方で、質の面での優秀層の教職選択に寄与する制度・政策的要因の特定については課題を残した。この点については改めて新規採択研究課題で取り組むこととなり、教員人材の質的・量的確保に関する総合的な政策研究として展開する予定である。
|