研究課題/領域番号 |
19K02435
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研究機関 | 玉川大学 |
研究代表者 |
坂野 慎二 玉川大学, 教育学部, 教授 (30235163)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 教育政策評価 / 学校評価 / 教育報告書 / 教育課程基準 / EBPM |
研究実績の概要 |
本研究は、ドイツ、オーストリア、スイスにおいてどのように教育政策のPDCAを推し進め、教育政策の成果を高めているのかを明らかにするとともに、検証に用いられている指標と手続きの検証妥当性とその限界を提示し、日本の教育政策検証への示唆を得ることを目的とする。そのために、OECDの教育インディケータ事業枠組みが、各国の基盤となっていることを確認するが、同時にその指標の取り方については、ある程度の多様性があり、その要因を分析する。第二に、憲法や学校法等に規定されている教育の目的・目標を、評価指標と対応関係を分析する。主たる分析対象は学校外部評価、教育報告書、教育課程共通スタンダードとする。 2020年度は、コロナウイルスの影響により、ドイツ等における聞き取り調査及び発表を行うことが困難となった。このため、主に文献による調査を進めることとした。第一に、2020年に公表されたドイツの教育報告書についての分析を行った。ドイツの教育報告書は2年毎に作成・公表されている。2020年版もデータに基づいた教育政策の実施状況と、その成果・結果としての関連データの検証が行われていることが確認できた。日本の文部科学白書ではこうしたデータによる分析という視点が弱い。第二に、教育報告書に用いられている検証データの作成手法について分析を行った。ドイツの教育報告書は、(1)インプット情報(教育人材、教育支出、教育参加、教育状況等)、(2)プロセス(就学前教育から高等教育、生涯学習)、(3)成果指標(労働市場、経済的生産性、経済以外の成果、機会均等)の枠組みを設定している。とくに機会均等の指標は、親の経済的地位、性別、移民の背景の有無、特別な支援の状況等による教育の格差について、データを丁寧に作成していることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ドイツの教育政策分析については、2020年の教育報告書、2019年に出版された元MPIB(マクス・プランク教育研究所)グループの『ドイツの教育制度』(UTB)、同じく2019年に出版されたアベナリウスらの『学校法』(Carl Link社)等の文献及びインターネット検索により、かなり必要な文献を入手し、分析を進めることができた。ドイツではPISA2018年調査等により、コンピテンシーを基盤とした教育課程や能力論に異論が出されるようになりつつある。 オーストリアでは、教育報告書が3年毎に作成されている。最新版は2018年に公表されている。報告書第1巻では、インプット、プロセス、アウトプットという形式はドイツと共通しているが、その後に「労働市場への移行」「アウトカム」が別途章立てされている。この「アウトカム」では、国民の教育状況、社会的成果、個人的成果及び政治参加の成果が指標として設定されている。一部はドイツの成果指標と共通している。報告書第2巻は、テーマ別で構成されており、(1)教員と授業の質、(2)教育制度改革、(3)教育制度の制御、といった内容に分類されている。とくに教育制度改革では、デジタル化に1節を当てている。これはドイツの2020年版教育報告書の特集がデジタル教育であったことを考慮すると、共通の重点課題となっていることが理解できる。また、2020年7月に連邦教育研究及び学校制度改革研究所(BIFIE)が廃止され、連邦学校制度質保障研究所(ISQ)が設置された。ISQは、根拠に基づいた学校制度の制御と改革を支援することを目的としており、検証のための政策が重視されていることが確認できる。 ISQは、オーストリア学術連合エージェンシー等国内機関、ドイツのケルン大学及びケムニッツ工科大学、更にはイギリスのラナスター大学を研究パートナーとしている。
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今後の研究の推進方策 |
日本では、学力についての検証データは、全国学力・学習状況調査及びPISA等の国際学力調査が例示されている程度である。また、全国学力・学習状況調査の詳細な分析は十分とはいえない。これはデータを分析する視点が確立していないためと考えられる。ドイツ及びオーストリアでは国内での学力調査が丁寧に分析されている。これは、家庭の経済状況、家庭の社会的状況、移民の背景の有無といった教育機会の格差を是正すること等が教育政策の重要な目標となっているためと考えられる。 3年目となる2021年度は、こうした視点から研究をより深めていく。第一に、ドイツのIQBが実施している国内学力比較調査について、どのような分析枠組みを構成しているのかを分析していく。ただし2020年に予定されていた調査はコロナウイルスの影響で延期されているため、これまでの調査枠組みについて分析する。また、研究機関や大学等の研究調査に研究対象を拡大して整理、分析を行っていく。 第二に、オーストリアの教育政策とEBPMの関係をより丁寧に分析していく。オーストリアの教育政策は、以下の点を重視している:(1)中退者の減少と資格獲得、(2)進路の公正さ、(3)コンピテンシーの向上、(4)自尊心と動機。こうした重点課題を検証するためのデータ蓄積とその手法について分析を進めていく。 第三に、スイスの教育政策及びその検証についての分析である。スイスでは2006年から4年毎に教育報告書が作成されている。最新版は2018年である。ドイツ及びオーストリアの教育報告書が、(1)インプット、(2)プロセス、(3)アウトプット、というOECDの「図表でみる教育」と類似の構成であるのに対して、スイスの教育報告書の構成は、教育領域別に構成されており、最後に「累積的効果」としてアウトプットに相当する内容が置かれているという相違点を分析していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたドイツ及びオーストリア調査がコロナウイルスの影響によって、中止せざるを得なかった。文献調査を優先して進めているが、旅費分が使用で持ち越しとなった。今年度あるいは次年度に調査により執行する予定である。
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