研究課題/領域番号 |
19K02443
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
丸山 美貴子 北海道大学, 教育学研究院, 助手 (30360879)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 親のエンパワーメント / インフォーマルコミュニティ |
研究実績の概要 |
令和元年度は、小樽市の保育園に関わり、第一に、共同保育所から認可保育所への歴史的経緯に関わり、当時の関係者からヒアリングをすすめ、資料の発掘と整理を行った。なかでも、保護者会の形成過程、活動の歴史的経緯に関わり、重点的に情報収集を行った。全国的な共同保育所運動の歴史的展開との関連については、「さくらさくらんぼ保育」という特徴を有する保育実践運動のなかに位置付くこと、同様の保育を行う保育園との研修や保育交流を行ってきたことが明らかになった。この点に関わっては、保育実践の交流と研修という位置づけが中心であることから、保育士の保育実践にとって、親に対するエンパワーメント支援を行うこと、親集団の形成が不可欠であるという視点が形成されてくる歴史的過程として把握・分析する必要が明らかとなった。 第二に、同保育園の保護者会活動に関わり、保護者どうしのコミュニティ形成の特徴とエンパワーメント支援のあり方について、参与観察を実施した。その結果、親のエンパワーメントにとって、フォーマルな保護者会活動がもつ意味は限定的であること、それ以上に、親どうしの子どもの見方、関わり方を、本音で生活の吐露を伴って交流できる懇談会が意味を持つこと、そのような懇談の場を作れるか否かが重要であることが明らかとなった。また、そのような懇談会を実現するうえで、インフォーマルな親どうしの関係形成、コミュニティの形成が基盤として重要であることが明らかとなった。子どもの育ちの課題を共有しうる懇談会がもつ意味に関わっては、協同的な家族支援システムが持つ意味として、家族支援論との関連で学会発表、雑誌論文発表を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第一の保護者会活動の歴史的経緯と特徴の把握に関わっては、総会議案書や資料、記念誌などの文書は入手可能であったが、フォーマルな活動に関わる記載が中心であり、親どうしの学び合いを支えるコミュニティ形成の実際、条件などの観点からの記載はまれであり、歴史的経緯の表面的把握に留まらざるを得なかった。加えて、2年前に引っ越しが行われた際、多くの紙資料が紛失したことも要因として大きい。当時の関係者からのインタビューから、親のエンパワーメントにとって、学び合うコミュニティ形成が重要である点を指摘されたが、その実際を把握するための資料は多く残されておらず、関係者の記憶のエピソード的なものに留まり、詳細な把握が難しい。保護者が子どもの卒園に伴い入れ替わること、保育者の入れ替わりも多く、歴史的展開が複数の関係者に部分的に記憶されていることが原因となっている。 第二の親どうしのコミュニティ形成とエンパワーメント支援のあり方に関わっては、最低一年間、少なくとも二~三年にわたる長期的な参与観察が必要とされるのが要因である。親のコミュニティの変容や形成過程を、インフォーマルな側面から把握することが研究上肝要となっている。当事者からのインタビューでは、意識化された事柄の語りに限定されるため、情報に偏りが出る可能性がある。長期的な参与観察によって、研究者の観点からコミュニティの形成とエンパワーメント過程を把握することが必要である。また、対象者との信頼関係を築くことがデータ収集にとっても必須条件であるため、長期的な関わりが必要であったことも要因である。
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今後の研究の推進方策 |
大きな変更点として、札幌市の保育園の保護者会活動を研究の対象からはずし、小樽市の保育園の保護者会を対象として絞り込むこととする。フォーマルな保護者会活動より、インフォーマルな保護者どうしのコミュニティのありようを把握することが研究上肝要であることが明らかになったため、研究者本人が足を運び、信頼関係を築くことが必須条件となっている。保護者会や懇談会が親の本音が吐露される場であればあるほど、録音の許可が難しく、研究補助員の参加からのデータ収集では限りがあるため、研究代表者本人が参与観察することが必要となったためである。 また、親集団のエンパワーメントや学習の課題は、子ども集団のありよう、それぞれの親子関係のありようが前提となる。そのため、親からのインタビューのみならず、子ども集団の現状把握、個々の子どもの発達課題把握、保育士からの情報収集も必要となる。子どもの変化、子ども集団の変化と親集団の変化を同時に把握していくため、今以上に定期的な参与観察が必要となる。 小樽市の保育園の保護者と保育士とは、昨年一年かけて関係づくりができてきている。今年度は、年長組の親集団を対象に調査を行うこととしたい。インタビュー調査も可能な信頼関係が出来ており、また、子ども達の特徴もおおよそ把握しているため、保育士からの情報収集も比較的行いやすいと思われる。 保護者会活動の歴史的経緯と特徴の把握に関わっては、保育実践の歴史経緯と特徴として整理・分析を再度試みる。保育実践の形成過程のなかで、不可欠な要素として親のエンパワーメント支援が位置付いていく過程として、継続して分析に取り組むこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査対象と保育研究交流を行っている団体へのヒアリング調査を予定していたが、新型コロナウィルス流行時期と重なり、調査を中止したため。出張が可能となれば、調査を行いたい。
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