研究課題/領域番号 |
19K02468
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
浅川 和幸 北海道大学, 教育学研究院, 教授 (30250400)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 教育学 / 新たな中等教育原理 / 地方発参加型教育実践 / 地域学習 / 地域アイデンティティ / 高校生議会 / 総合的な探究の時間 |
研究実績の概要 |
研究課題「人口減少時代における地方発参加型教育実践の比較研究による新しい中等教育原理の探究」を遂行するための実証研究を、研究方法に掲げた2類型それぞれで行った。 第1類型は、「地域アイデンティティ」の形成を狙いとした「地域学習」の効果に関する研究である。昨年度行った中学校1校の3年生を対象としたアンケート調査の分析と理論化を行い、報告書『大樹中学校調査報告書――「地域学習」・キャリア教育の取組と中学生の地域アイデンティティ』(1~73頁)を作成した。 事例とした中学校では、町で推進する「地域学習」と地域流出型のキャリア教育の両方を実践されていた。キャリア教育は進路(進学)意識を明確にするという点で効果を発揮していた。しかし、今後到来する「未知の未来」に向けた人生や生活の探索という点で効果は乏しく、生徒の将来志向も「平穏な生活の維持」という守勢的な性格に止まった。他方で「地域学習」は、一部の生徒に地域生活や「働くこと」そのものへの探究を促す契機になった。しかし、これも影響力が弱かった。両者の利点を組み合わせた(地域)「人生探究」にバージョンアップする必要があると結論した。 地方発参加型教育実践の第2類型は、地域社会への生徒の積極的な関わりだけではなく、影響力を発揮することを付加した実践の効果に関する研究である。具体的には、「高校生議会」実践を引き続き取り上げた。2020度は2つの高校を対象とした(道立芽室高校と私立白樺学園高校)。学校の現状を知るための管理職と実践担当教諭へのインタビュー調査である。さらに、前述の高校の実践に協力する地方議会(芽室町議会)の議会事務局と議員団の調査・意見交換を行った。具体的には、市民参加のための議会改革と高校教育への支援との関連、両者を貫く論理について、である。 生徒への効果について調査する必要があったが、「コロナ禍」で実現できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
以下の1~3のそれぞれで、「新型コロナウイルス」拡大によって実行不能になったり、延期が余儀なくされたりした。まとまった形での成果としては、1の報告書の作成で新たな「地域学習」の方向性としての(地域)「人生探究」の必要性を提起できたに止まった。よって「やや遅れている」を選択した。 1.地方発参加型教育実践の第1類型の研究は進めることができた。大樹町の中学校で行われている「ふるさとキャリア教育」実践を対象とした。昨年度実施の、中学生を対象としたアンケート調査の分析を終え、報告書を作成した。しかし高校でこの両者が行われている新たな事例の研究に着手できていない。 2.地方発参加型教育実践の第2類型の研究は部分的にしか進んでいない。地域社会への生徒の積極的な関わりだけではなく、影響力を発揮することを付加した「高校生議会」実践を対象とした。その効果を、芽室町(道立芽室高校、私立白樺学園高校)で調査研究することを目指した。しかし、その効果について生徒調査に進むことはできなかった。芽室高校は議会との懇談会は行っているものの町議会との積極的な関係を形成する必要性を管理職が感じておらず、調査自体を提案することができなかった。白樺学園高校は現在実施可能性を検討してもらっているところである。 3.地方議会とも連携した教育実践であることに鑑みた「高校生議会」実践の研究交流会の開催を企画した。これは全く進んでいない。昨年度末に計画したものであったが、「コロナ禍」と今年度の研究の進捗状況の両方を考慮し、再度延期した。
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今後の研究の推進方策 |
「新型コロナウイルス」感染拡大「第4波」の拡がりによって「対面」でのインタビュー調査が難しい状況は続くと考えられる。しかし、学校側の許可がいただければ、アンケート調査の実行は追求できるのではないかと考える。調査研究としてのバランスは良くないが、柔軟に研究を進めたいと考えている。また、距離を超えた交流の可能性を追求は可能であり、そのためのノウハウの蓄積もすすんできた。そのため、実践者(高校教員)を結んだ研究交流とその成果のとりまとめる可能性も模索したい。 2021年度前期は、これまで行ってきた地方議会と高校が連携して行ってきた「高校生議会」等の実践の効果を、生徒に対するアンケート調査ができる事例に絞り込み、集中的に調査研究を行うことに注力したい。 2021年度後期は、「新型コロナウイルス」感染拡大が鎮静化することを待って、アンケート調査で獲得された知見を素材に、延期された研究交流会の実施を企図する。最終的には、新たな中等教育原理を体現するような教育実践として学校に導入することが可能な形へと練り上げられなければならない。例えば、北海道で高校存続を目指す地方自治体において、議会と高校が連携して取り組むことになる「高校生議会」導入の「手引き」(スタート・ブック)の作成を、研究者・教員・議会で行いたいと考えている。他方で同時に、これらを裏付ける「エビデンス」の蓄積を試みる。 このように、昨年度同様、「新型コロナウイルス」感染拡大への対策を考慮しながら、「非対面」で可能な研究を進めて行くこと、またそこで集まった知見からとりまとめ(報告書)の作成を行う予定とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題研究は、北海道の地方の中等教育とこれに関わる地域諸組織の実践に関わる調査研究である。そのため、北海道における「新型コロナウイルス」感染拡大とそれによる地域移動の制限、学校による来訪者の制限等が決定的に影響した。旅費を中心とした支出構造のため、旅行が制限されることで予算を残す結果となった。調査員として学生・大学院生を活用する事になっていたが、数少ない旅行においても、感染拡大抑制のため同行させる事ができず、この点も支出が進まなかったことにつながった。また、昨年度の研究成果として報告書の出版を行ったが、年度内で支出とならず今年度の支出となってしまった部分が15万円超あり、これも昨年度支出額が非常に少ない原因となった。 この地域移動の制限、学校による来訪者の制限等が、今年度も同様に続くのであれば、昨年度同様の支出の遅延ないしは、不可能になることは想像に難くない。これは研究代表者の努力の及ぶ所ではないため、いたしかたない。しかし、研究交流会の実施等で「オンライン」を利用した実施や、その成果の公表という点でもう少し努力の余地はあるかもしれないと考えている。 そして残念ながら、最終的には返上する事も大いにあり得ると考えている。
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