研究課題/領域番号 |
19K02471
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研究機関 | 筑波技術大学 |
研究代表者 |
竹下 浩 筑波技術大学, 保健科学部, 教授 (30629671)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スキル開発 / 障害者職域拡大 / 視覚障害者 / 教育と社会の接続 / 社会的アウトカム / 研修開発 / ケア型リーダー / 概念的スキル |
研究実績の概要 |
本研究は、視覚障害者の職域開発に資する「就労スキル獲得と上司の支援プロセス」を説明・予測する理論を構築、「職種拡大プログラム」を開発、現場で応用・改善する(社会的アウトカムの実現)。当事者の就労スキル獲得(令和元年)・上司の支援(令和2年)・大学生の職業選択(令和3年)過程を解明、訓練プログラムを開発、実践で検証(令和4年)する(2年目以降、国内外学会で年1回ずつ発表)。 初年度(令和元年)は、8社17人(本人7人・上司10人)のデータを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチで分析した。協力先獲得の実情に合わせた工夫として、本人プロセス分析には人数が不十分なので、高度な分析手法(個人ではなく相互作用自体を分析焦点者とする)に初めて挑戦した。 結果、「障害者対健常者に加えて部下対上司でもある」構造特有の「相互可視/不可視」文脈が明らかになった。通常、対人的相互作用においては相互の行為は可視だが、思考や感情は不可視である。本研究では、タスク(上司の指示する業務)やスキル(本人の就労スキルと上司の支援スキル)は互いに認識できるが、苦手/不足スキルや就労観/雇用観は認識できない(ためにタスク拡大やスキル発達を阻害する)。 上司の観察した不足スキルと本人の認識する苦手スキルにギャップが存在していたことを日本教育心理学会第61回総会(2019年9月)で、上司の雇用観(障害者を部下として持つこと)と本人の就労観(障害者として働くこと)がタスク増減とスキル発達に影響していたことを英国心理学会職業心理学部門(2020年1月)で発表した。 得られた結果図を理解することで、上司と部下が職場で直接対決することなく、タスク拡大とスキル発達に必要な相互理解と歩み寄りが可能になる。社会的アウトカム実現には上司と本人による検証が不可欠であり、それを可能にする結果図が得られたことは意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
企業から得られた協力の実態に合わせて計画を修正し、本人の就労スキル獲得と上司の支援プロセスを同時に分析することができた。 1年目に本人の就労スキル獲得プロセス、2年目に上司の支援プロセスを分析するのではなく、1年目に2つのプロセスを統合的に分析して相互作用の構造的な特徴を結果図として示したことにより、学会発表のペースは前倒しで進んでいる。 分析結果は教材とし、個別の企業訪問により現場で応用・修正していきたい。これを蓄積することで、4年目の成果に結びつけることができる。 特筆すべき成果(スピンアウト的な研究成果)として、重度視覚障害者の職種拡大を可能にする「概念的スキル訓練」の重要性と具体的な訓練方法に関する示唆が得られたのは、本研究全体の社会的アウトカムの点で意義が大きい。
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今後の研究の推進方策 |
2年目(令和2年度)は、上司側と本人側両方のプロセスを個別に分析する。分析対象人数が増えることでより豊富な質的データが得られ、前年度の分析では生成に至らなかった概念が得られる見込みである。 これにより、グラウンデッド・セオリー・アプローチの強みである実践での応用力(例:こういう状況ではこの方略を用いる)を高め、4年目に予定している研究の社会的アウトカム(分析結果が実際に現場の困難を解決する)実現が可能になる。 初年度中に追加データが収集(4社16人、本人8人・上司8人)ができており、2年目で本人側と上司側のプロセスを個別に分析することは可能である。従って、当初計画比でも計画通りの進捗を見込んでいる。
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次年度使用額が生じた理由 |
半構造化面接法によるデータ収集への協力企業が、初年度(令和元年)は、(1) 期せずして東京都内に集中していたこと、(2) 1社で多人数の応諾が得られた先が多かったことから、結果的に旅費が節約されたことによる。 2年目(令和2年度)以降は、地方企業も含めたデータの追加的収集及び出張研修による検証に充当する。
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