研究課題/領域番号 |
19K02474
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
生澤 繁樹 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 准教授 (70460623)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プラグマティズム / ジョン・デューイ / 科学技術 / コモン・マン / 社会正義 / 生活経験 / 熟議デモクラシー / 公衆の形成 |
研究実績の概要 |
本研究は,英米哲学における古典から現代へと至るプラグマティズムの哲学・思想的方法の展開可能性と理論的諸課題を検討し,社会正義の構築を求める〈政治〉と人間存在にとっての〈経験〉の在り方・諸相の再理解とをつなぎあわせる新たな人間形成論の理論的枠組みを構想することを目的とする。この目的を果たすために,本研究では,従来の〈政治〉をめぐる社会・政治理論と〈経験〉をめぐる教育理論の関心がともに交錯する「教育的正義」を再構築するための理論的基盤の解明に焦点を当てる。とりわけ,社会正義の実現をめざす〈政治〉が人間の〈経験〉の再構成と結びつく課題であると捉えたプラグマティズムの意義を現代的に再評価することにより,社会・政治理論の摂取・援用を超えて教育的正義を再構築するための〈政治〉と〈経験〉を結びあわせる総合的な人間形成論への基盤を創出する。 研究計画初年度の2019(令和元)年度は,「教育的正義」の構築が〈政治〉と〈経験〉をつなぐ人間形成論的視座を必要とする課題であり,この課題に対する社会・政治理論および教育理論の到達点と限界を確認する作業を行なった。具体的には,ジョン・デューイのプラグマティズムを再検討することにより,社会や政治に関する諸理論と教育や人間形成に関する諸理論の直面する課題がいかなる点で交差するのかという点を探っていった。とくに人間の生活や経験に深く関わりをもつとともに政治や社会の課題ともなりうる科学や技術めぐる問題は,知識や情報の格差を考えるうえで社会正義の重要なテーマとなりうることが確認されるとともに,生活や経験に根ざした公衆がいかに政治へと参加し関与していくことができるかという点でこのテーマが「教育的正義」の構築の試金石となりうることが確認された。またこの意味で,熟議を通したデモクラシーがいかなる可能性をもち,いかなる限界に直面するのかということも検討することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究課題の解明に資する国内的成果は多く得られたものの,当初予定した研究計画を着実に遂行できたとはいいがたい。成果としては,第一に,学会等における研究報告や論文・書籍の刊行を進めるなかで,何のための教育的正義の構築が求められるのかという点がいくらか明らかとなった。またそれだけでなく,第二に,その構築の方法や手段に多様性があるということも明らかとなり,そのなかで公衆を形成するという教育的課題が社会的正義の課題というだけでなく教育的正義の構築というより複雑な課題を含んでいる点が浮き彫りとなるなど,今後解明すべき検討課題が浮かび上がってきた。とはいえ,その一方で国際的成果をあげるという目的は十分に果たされなかった。計画の遂行という面から厳しくみると,進捗状況はやや遅れていると自己評価せざるをえない。
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今後の研究の推進方策 |
国際的成果が不十分であるという点は,発表の登録をしていた国際学会が政治的情勢の変化により中止となるなどの事情があった。また年末から年度末にかけての新型コロナウイルスの拡大による社会的状況の変化など,年度末の研究会への参加や発表を中心に研究計画を十分に遂行することができず,予算の使用計画の変更を余儀なくされた側面もある。とりわけ年度末からの社会的状況は,研究計画の2年目である2020(令和2)年度の目的遂行にもいくらか影響を与えるものと予想され,国際学会での学会発表などの報告機会が得られないなどの困難がすでに予想される。こうした問題に対しては,論文の執筆や書籍の刊行を中心に学会発表に代わる成果発表の機会を積極的に探るなどの工夫を適宜講じながら,研究課題の解明という点に集中して研究成果の蓄積を行なっていくつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
政治状況の悪化を含む国際情勢と新型コロナウィルス感染拡大をめぐる国内の社会状況の変化により,国際学会や国内研究会が中止となった。そのため,国際学会の発表にかかる海外渡航計画および国内研究会の参加計画を十分に遂行することができず,次年度使用額としての繰越金が発生した。本年度も報告を予定していた国際学会や国内学会・研究会が延期または中止され,秋以降の国内学会もオンラインで開催される予定であるなど,研究報告等に必要な経費の使用計画の変更が旅費等の支出を中心に一部生じる見込みである。これについては,論文や書籍刊行に向けた研究成果の報告と蓄積にいま一度研究活動の重点を置きなおし,課題解明を遂行するための文献・資料収集等に支出を部分的に充当するなど,適宜使用計画を確認しながら着実に研究の目的を達成するよう努めていく。
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