研究課題/領域番号 |
19K02478
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
柴 英里 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 准教授 (70611119)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ウェルビーイング / ストレス / 児童 / 学級経営 / ヘルシーエイジング |
研究実績の概要 |
前年度に行った文献調査結果から、ストレス対処能力形成だけでなく、ウェルビーイングの向上を目指した取組や食教育プログラム開発が重要であることが明らかとなった。そこで2020年度(2年目)は、次の3つのサブテーマを追究した。その概要および主要な成果を以下に示す。 (1)ウェルビーイングの構成概念・構成要因の整理:ウェルビーイングの概念は多義的である。そこで児童生徒のウェルビーイング向上を目指すにあたり、まず文献調査によるウェルビーイングの構成概念・構成要因の整理を試みた。その結果、学校教育において目指すべきウェルビーイングの構成概念として、心理学者マーティン・セリグマンの提唱する「PERMA理論」に着目することとした。 (2)児童を対象としたウェルビーイング尺度作成:これまでのウェルビーイング尺度は青年期以降を対象としたものがほとんどであった。そこでPERMA理論に基づいた小学生版ウェルビーイング尺度(以下、「小学生版PERMA尺度」とする。)の作成を試みた。小学生版PERMA尺度は全15項目からなり、大学教員1名と小学校教員2名によりその内的妥当性を担保した。小学校4年生101名を対象として質問紙調査を実施した結果、各質問項目は回答可能であることが確認された。 (3)児童を対象としたウェルビーイング向上に資する介入プログラムの開発・実践:小学校4年生34名を対象として、6日間にわたる介入を行った。具体的には、毎朝、朝の会にて1~4分間マインドフルネスを行い、その前後で質問紙調査を実施した。その結果、介入前後において、有意にストレスレベルが下がり、主観的幸福感が上がることが明らかとなった。小学生版PERMA尺度を用いた調査結果から、介入プログラム実施前と実施後でウェルビーイングに有意な差は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、当初、ストレス対処能力の形成を主眼とした食教育プログラムの開発を目的としていた。しかし生涯にわたりより良く生きるためには、子どもたち一人一人がどのような生き方をしたいかを考え、自分自身の強みを認知し、自己の可能性を最大限発揮しながら、各々の生きがいを見出せるようウェルビーイング向上に資する取組が必要であるという考えに至った。 ウェルビーイングの構成概念・構成要因についての文献調査は完了した。また小学校4年生以上に適用可能なウェルビーイングを測定するための尺度(小学生版PERMA尺度)を作成した。この尺度の信頼性・妥当性については、引き続き検討する。また中学生のウェルビーイングを測定する尺度の作成は3年目に実施する。食教育プログラム開発については、2年目に小学校・2~3クラスの児童を対象としたパイロット・スタディを行う予定であったが、新型コロナウイルスの影響で実施困難であった。そのため、3年目に予定を延期して準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度(3年目)は、ウェルビーイングに主眼を置いて、次の2つをサブテーマとした研究を推進するとともに、これまで実施した一連の研究成果を包括的に取りまとめる。 (1)児童生徒のウェルビーイングの実態把握:前年度に引き続き、児童および生徒に対する横断的調査を実施し、学校におけるウェルビーイングとは何かや、児童生徒のウェルビーイングの構成要因について明らかにする。具体的にはウェルビーイングに関する自由記述などをテキストマイニングし、その特徴を解明する。また中学生版ウェルビーイング尺度を開発し、その信頼性・妥当性を検証する。本研究によって児童版ならびに生徒版ウェルビーイング尺度が提案されることになり、より細密に児童生徒のウェルビーイングを把握できるようになることが期待できる。 (2)児童生徒のウェルビーイング向上に資する授業・学級経営の開発的実践:ウェルビーイングを向上させるための授業・学級経営を開発し、小学校ならびに中学校2~3クラスを対象とした準実験デザインによりその効果を検証する。学級経営では、児童生徒一人ひとりの多様性を尊重しながら、人間関係づくり、集団づくり、生活づくりを行うが、これまでウェルビーイング向上に焦点をあてた学級経営に関する実践研究はみられない。ウェルビーイングの要因として、ポジティブ感情や自尊感情といった個人内要因はもちろん、他者との関係性である個人間要因も重要とされており、学級経営においてウェルビーイング向上を目指すことは子どもたちがより良く生きていくための新たな視点を提供することができると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により、当初の研究計画より進捗が遅延した。それにより経費の使用状況が計画通り進まず、次年度に繰り越さざるを得なくなった。 次年度の使用計画としては、当初の計画で計上していた研究成果物の公表や出版(学術雑誌への投稿料等)にかかる費用に加えて、食教育を充実させるデジタルツールの購入とその利活用に関する経費等を考えている。
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