研究課題/領域番号 |
19K02479
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
野々村 淑子 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (70301330)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 18世紀イギリス / 出産救済 / 在宅出産 / チャリティ |
研究実績の概要 |
今年度は、引き続きロンドンの無料診療所の史料を渉猟しつつ、特に出産救済チャリティの動向を追った。なかでも「既婚の貧困女性のための在宅出産チャリティ」に注目し、その組織運営体制、支援者(寄付者)や出産に従事した産婆、産婦に求められたモラル等の史料から、家族、性差規範を明らかにした。 自宅から病院へ、という変化として語られることの多い出産の場であるが、ここでは逆の動きがあった。18世紀半ばに無料診療所の一部として、あるいは独立した無料産院が数多く設立された。無料産院は、それまで緊急時のみに呼ばれていた男性医師(男性産婆)たちが、通常分娩にアクセスすることのできる場として機能していたことは知られている。在宅出産チャリティは、それら無料産院と競合する形で設立された。病院の建物、器具やベッド、リネン等の準備が不要で、よりリーズナブルであるという特徴が強調され、寄付者の人数、出産数を伸ばした。 本研究にとって、重要なのは、18世紀の貧困層向けに「家族」のもとでの出産を促した意味である。18世紀は、救貧法制のなかで「家族」が「承認」され始めていく時代であるとされる(川田昇『イギリス親権法史-救貧法政策の展開を軸にして-』一粒社、1997)。在宅出産チャリティの事業報告書に記載された出産救済を受ける際の規則や命令、寄付を呼び掛ける説教のなかで語られる貧困者たちの出産にあたっての家族関係の望ましい在り方からは、法制度とは別に、慈善団体というボランタリーな活動において、貧困者に要請される家族や夫婦、子どものあり方を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
既に入手済みの史料を分析することができた。しかし、コロナ禍において、当初予定していた渡英しての史料収集が非常に困難である。 報告書や説教等の活字化され出版された史料は日本においても入手することができるが、議事録や、書簡類、事業団体のより個別的な史料はロンドンに行かなければアクセスできないものが多い。
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今後の研究の推進方策 |
出産救済については、産婆(男性医師=男性産婆を含む)たちが書いた産婆術書を併せて分析することにより、産む身体としての女性像の詳細、男性医師が出産に接近する歴史的意味等を追究していくことを考えている。 また、出産、すなわち子どもが生まれること、育つことへの社会的関心は、人口政策と連動しており、国民の生命、生活への国家による配慮である。イギリスにおけるポリス論の展開と併せて究明していくことを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍において、イギリスでの史料収集が全くできず、旅費が使用できなかった。 来年度は、できれば渡航したいが、もしできなかったとしても、図書館等の利用が少し好転しているようなので、史料へのアクセスに努力する。 渡航できればよいが、できなかったとしても、デジタル化ないし印刷費等として経費を使用することとする。
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