研究課題/領域番号 |
19K02482
|
研究機関 | 八戸工業大学 |
研究代表者 |
松浦 勉 八戸工業大学, 工学部, 教授 (30382584)
|
研究分担者 |
佐藤 広美 東京家政学院大学, 現代生活学部, 教授 (20205959)
一盛 真 大東文化大学, 文学部, 教授 (90324996)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 優生思想 / 優生学 / 災禍に向きあう教育 / 他者認識 / 植民地教育 / 植民地主義 / 歴史修正主義 / ナショナリズム |
研究実績の概要 |
「コロナ禍」の下での研究活動となったが、分担研究者の佐藤と一盛は積極的に成果を上げた。しかし、松浦は直接コロナ禍の影響もあって、有意義な成果をあげることができなかった。 まず、佐藤と一盛は、戦争責任や植民地支配責任を究明するための基礎的な研究と、それらの責任を追究・追及するサイドの思想主体としてのあり方にもかかわる現代的なテーマを検討した。前者に共通する課題は、「国定教科書」の歴史的・批判的検討であり、後者については、津久井やまゆり園事件をめぐって明らかとなった日本社会の「優生思想」の批判的な分析である。国定教科書分析については、佐藤は2論文、一盛は1論文をそれぞれ発表している。後者の課題についても、佐藤と一盛はそれぞれ1論文を発表している。 加えて、佐藤は、「災禍に向きあう教育」として、勝田守一の晩年の教育思想と石牟礼道子の思想を検討した二つの論考を発表している。 松浦は、二つの論考といくつの備忘録のような小論をまとめた。まず、論考「<コロナ後>後のナショナリズムとその負の作用に向きあう」では、紙面批評としてコロナ禍以前から先進国だけでなく、後進地域でもすでに台頭していたナショナリズムと、コロナ禍が終息する途次において、あるいはその終息後にどのように向き合ってくのかをめぐって、テーマを異にする6つの論考を検討した。これらの個別の特徴と意義を論じるとともに、コロナ禍はナショナリズムの思潮と運動を封じ込めはしないという各論稿の基本的なスタンス(論調)を、とくに日本のネオ・ナショナリズムの動向に即して確認した。また、年度末に出した『教職教室年報2019』に、発刊の趣旨に代えて長い「巻頭言」を発表し、日本社会における「民主主義」の凋落と文科省の地盤沈下、教育学を含めた学術研究のあり方に直接かかわる「学術会議問題」と科学技術基本法改正問題などに論及した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、予期しない「コロナ禍」の拡大に大きく制約されることになった。とくに、研究代表者の松浦の場合は、コロナ禍のために、学内での仕事が増えただけでなく、教職教室が3名の専任教員体制から2名体制に後退したため、とくに教職を履修する4年生の指導と別途担当している教養科目の負担が過重なものとなってしまった。 たしかに客観的な主要な原因は終息をみない「コロナ禍」にあるが、もう一つは、この科研研究の課題に内在する理由も指摘できる。「戦後教育学」の意義と限界を戦争責任や植民地支配責任の視座からトータルに検討するに当たっては、その歴史研究の方法の積極的な有効性と意義を前面に出すだけでなく、その限界についても、あらかじめ確認しておく必要があると考える。やまゆり園事件に関わる優生(学)思想や勝田守一の晩年の教育思想、石牟礼道子の思想分析を行った分担研究者の佐藤と一盛の成果は、その意味においてこの共同研究の直接的な課題に対して迂回的にではあるが、積極的に寄与する成果となっている。じっさい、戦争責任研究や植民地支配責任研究は、多様な学問領域から積極的にアプローチが行わるようになった。例えば、「戦時性暴力」を戦争責任や植民地支配責任として究明・追及する研究は、その代表的なものである。戦争責任や植民地支配責任という場合は、加害者も一枚岩でなく、その責任の位相と軽重が異なるように、被害者も多様であり、被害者の中にも被害―加害の関係性が存在する。いわゆる「従軍慰安婦」問題が、東京裁判で裁かれなかったのは、総じて内外に女性に対する性暴力が「人道に対する罪」に相当するという、今日的なジェンダー平等思想が欠落していたためである。人権にかかわる多様な視座から、これらの責任が究明・追及されなければならないのである。 「倫理主義」と非難されることもある私たちの共同研究の集大成として、この点を再確認しておきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度は私たちの共同研究の最終年度となる。「戦後教育学」の第1世代と第2世代がかつての日本のアジア太平洋戦争と植民地支配の問題にどのように向き合ったのか、向きあわなかったのか、について、当初対象化することにしていた海後時臣や勝田守一、宮原誠一、海後勝雄などの教育学者の学問的な営為とその成果に即して、共同研究の集大成として論考をまとめ、発表していきたいと思う。過去2年間の成果も積極的に活かして、課題に取り組んでいきたい。昨年、東京大学出版会から『戦後教育学』上・下巻が出るとの広告が出た時には、性急にもこの成果を批判的に検討して、共同研究の成果を急ごうと考えたが、この二つの著作は出版とりやめになってしまったようである。最終年度は、このままコロナ禍が継続することを前提として、最終年度に相応しい論考の草稿を年内までにまとめ、相互に検討しあうことを優先事項として、確認し、そのための準備を進めていきたい。研究代表者である松浦の所属する八戸工業大学は、「宣言」等がだされている期間の出張は原則禁止となるため、個別の先行研究を渉猟することはできないかもしれないが、まずは基本文献を読み込むところから始めたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
「コロナ禍」により、所属大学の規則により研究代表者の松浦は1年間、研究出張ができず、フィールドワークのための研究出張を控えざるをえない分担研究者も出たことが主たる理由である。。2021年度も、コロナ禍は継続しており、首都圏への移動は困難になるかもしれない。それを補填する意味でも、私たちの共同研究と直接・間接に関連する先行の文献や史料、最新の文献などを積極的に入手することに努めたい。
|