研究課題/領域番号 |
19K02493
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研究機関 | 国立歴史民俗博物館 |
研究代表者 |
樋浦 郷子 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (30631882)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 教育史 / 学校儀礼 / 身体 / スポーツ史 |
研究実績の概要 |
2019年度においては、主に学校儀式・儀礼を含むものとしての運動会など、スポーツの歴史を視野に入れた研究を実施した。とりわけ、植民地・日本内地を問わず学校日誌や沿革誌など、学校保存書類のなかにあらわれる学校儀式や運動会など行事の様態に迫り、次のように公表した。(1)(口頭発表)「帝国日本の『学校沿革誌』―学校の儀礼に着目して― 」日本台湾学会第21回学術大会 2019年6月8日。(2)(口頭発表)「「運動会」の展開に関する素描」近代東亞體育世界與身體:臺日體育交流 2019年8月5日。(3)(論文)資料紹介〈翻刻〉「『高雄第一公学校(旗津国民小学)沿革誌』―植民地期台湾の教育史―」 『国立歴史民俗博物館研究報告』 2020年3月。(4)(論文)台南市新化区の学校史からみる台湾の御真影 『国立歴史民俗博物館研究報告』2020年3月。 (1)(3)(4)では、『学校沿革誌』をつぶさに読むことによって、近代学校の有した普遍的特質と、地域事情に根差した特有さとを、並行して把握することを目指した。(2)では、「運動会」という日本に特有の行事の歴史を紐解き、近世由来の子どもの遊びも影響していること、男女に期待されていることに顕著な差がみられることに迫った。共通した成果を挙げるとすれば、例えば関東大震災の直後に、学校はどのように行事等を変更したかということについて興味深い知見を得た。震災の直接の影響を受けた地域では、少し時間が経過すると運動会などは変わらず実施する例が見られたのに対し、遠く離れた植民地である台湾の公学校(台湾人対象初等教育機関)では、「戊申詔書」奉読式も含めて学校の空気がいっそう厳粛なものとなり、運動会の名称や規模に変化が見られたのである。この点は、植民地の学校の特質を示すものとして今後も慎重に検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年間を通じて、上記(1)~(4)以外の発表も含めて4本の論文・ノート類を公表し、4回の口頭発表を行った。うち2回は海外で行った。これらの活動は、本科研費および昨年度までの科研費(16K04491)によって支えられた。 研究を進めるなかで、漢文教育の東アジア的基盤に関心を持ち、国際シンポジウムを計画したものの、新型コロナウィルスの世界的広がりのなかで2019年度の開催は断念せざるを得ない状況になった。このことをのぞけば、研究を計画どおりに進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、東アジア史の視座で考える漢文の教育を課題とする。漢文教育にあらたに関心を持つに至った理由は、音読(素読)、筆写、暗唱など、多様な身体の動きが要請されるものだからである。この点、本研究の課題として避けて通ることができないと考えた。これらは東アジアに共有されるだけでなく、植民地支配における現地の教育のありさまの特殊性を浮かび上がらせたり、教育勅語の物神化のプロセスを分析する上でも重要な示唆を与えるものと予測している。これについては、2020年度末に国際研究集会(シンポジウム)を実施し、台湾や韓国の研究者を招聘して協働的に課題に接近する予定である。 第二に、当初の予定どおり「誓う」「誓わせる」という方法を用いた教育について歴史的な検討をすすめることを目標とする。これについては、2020年度と21年度、2年間をかけて行う予定である。 いずれについても、2020年度および21年度の教育史学会等での発表、朝鮮史を研究する学術団体機関誌への投稿を予定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月20日に、一部本研究費を利用して、国際シンポジウム「近現代東アジアの文化基盤」を開催予定であった。しかし、新型コロナウィルス感染症の世界的流行を背景に、やむなく次年度へと開催を延期することとなった。この金額を次年度にまわす結論に至った。そのまま2020年度に実施、使用予定である。ただし、2020年度においても上記の社会情勢を慎重に見極める必要がある。
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