研究課題/領域番号 |
19K02498
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山名 淳 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 教授 (80240050)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 教育 / 集合的記憶 / 文化的記憶 / 想起文化 / ビルドゥング / メモリー・ペダゴジー |
研究実績の概要 |
本研究の2年目であった2020年度には、大きく分けて(1)広島における原爆の記憶継承の実践に関する調査の遂行、(2)メモリー・スタディーズに関する学際的・国際的な情報交換およびその整理、(3)研究会の開催による共同研究成果の積み重ねを行った。 (1)前年度までに調査を行ってきた原爆の記憶継承のための「原爆の絵」プロジェクトに関する考察の成果について国内外の学術雑誌などで公にすることができた。また、2020年にリニューアルされた広島平和祈念資料館の空間構成に関する調査も引き続き行った。「原爆の絵」プロジェクトをモチーフとした演劇「あの夏の絵」(青年劇場、2015年-)の関係者へのインタビュー調査を行う予定であったが、この点は新型コロナウイルス感染症への対応のために滞り、次年度への課題となった。 (2)国際メモリー・スタディーズ学会で活躍するアストリッド・エアル氏(フランクフルト大学)の理論テキスト『集合的記憶と想起文化』(第二版 増補改訂版、2017年、使用言語はドイツ語)の翻訳を進めた(2021年度内に刊行予定)。その際に、主にメールを通じて情報交換を積極的に行った。また、記憶と想起をめぐる教育哲学に関しては、ローター・ヴィガー氏(ドルトムント工科大学)、マルクス・リーガー=ラーディッヒ氏(テュービンゲン大学)、と共同研究についてもオンラインでの情報交換を進めた。 (3)国内の研究協力者と年3回のオンライン研究会を開催し、主として教育哲学の立場から記憶と想起の問題を考察するための議論を重ねた。本研究会の成果は、2022年度の前半に公にする予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の影響を受け、本研究企画当初に予定されていた海外での調査について大きく修正を迫られた一年間であった。またカタストロフィの記憶に関する演劇に関する本格的な調査を行う予定であったが、この点でもコロナ問題により舞台観察やインタビュー調査を実施することが困難であった。 その一方で、理論研究ついては、『集合的記憶と想起文化』(2017年)の翻訳およびそのための海外研究者との情報交換をはじめとして予定通り推進することができた。教育哲学者とのオンライン会議も十分に機能した。さらに国内の研究協力者とオンライン研究会を重ねることができ、次年度により本格的に議論を行うための基盤を築くことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
具体的に、四つの目標を立てている。(1)メモリー・ペダゴジー論集の刊行に向けて、継続して研究会を積み重ねる。(2)上述したエアル『集合的記憶と想起文化』の邦訳を刊行する。(3)「平和教育」を事例としてメモリー・ペダゴジー論の有効性について検討を行う(2021年6月の日本カリキュラム学会シンポジウムにおいて報告予定)。(4)演劇「あの夏の絵」の調査を行い、「リメディエーション」と「リプリゼンテーション」を鍵概念としてその成果をまとめる。以上の研究活動を通して、最終的に国内外のメモリー・ペダゴジーに関する共同の研究基盤を形成したい。 海外調査については2021年度も引き続き新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受ける可能性が高い。20年度と同様に、オンラインで海外研究者とやり取りを行うことで善後策を講じたい。原爆の記憶継承の演劇に関する調査については、本務校における感染予防のガイドラインに基づいて十分な対策を行いつつ、可能な範囲で演劇関係者へのインタビューなどを実施する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、海外渡航費として計上していた部分の予算執行がかなわたなった。また、本来、対面で行われるべき調査に関して人件費を計上していたが、この部分での予算が執行できなかった。次年度では、インタビュー調査に関わる費用(文字起こし、関連データの整理等)、理論書翻訳のための関連情報整理に関わる費用、国際的な学術情報交換および研究成果の発信の費用としてこれらの予算を活用する予定である。
|