研究課題/領域番号 |
19K02498
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山名 淳 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 教授 (80240050)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 教育 / 集合的記憶 / 文化的記憶 / 想起文化 / ビルドゥング / 記憶の教育学(メモリー・ペダゴジー) / リメディエーション / 想起 |
研究実績の概要 |
2021年度は、大きく分けて四つの目標を立てた。(1)メモリー・ペダゴジー論集の刊行に向けて、継続して研究会を積み重ねる。(2)記憶の理論に関する重要な著作であるエアル『集合的記憶と想起文化』の邦訳を行う。(3)「平和教育」を事例としてメモリー・ペダゴジー論の有効性について検討を行う。(4)演劇「あの夏の絵」の調査を行い、「リメディエーション」を鍵概念としてその成果をまとめる。 (1)については一年間で計7回の研究会を開催して「記憶と教育」に関する各論考の検討を行った。その成果は2022年夏季に刊行予定である。(2)の邦訳作業もほぼ順調に進めており、2022年4月中旬現在、二度目の校閲作業を終えた段階にある。予定では2022年夏季に刊行される。(3)については日本カリキュラム学会第32回大会シンポジウム「新しい時代を切り拓く平和教育のあり方について」(2021年6月26日、琉球大学、オンライン開催)にて、記憶の教育学の立地点から平和教育について論じた。(4)に関する実績としては、原爆の記憶継承とかかわる演劇について「不条理」哲学とのかかわりで論じた拙論を英語論集に寄稿した(Wigger/Dirnberger 2022)。また、教育思想史学会第31回大会コロキウムにおいて「原爆の絵」プロジェクトをめぐる討議を行い、その成果を公にした(山名編 2022)。同プロジェクトをモチーフとした演劇「あの夏の絵」に関しては関係者へのインタビュー調査を積極的に行ったことで貴重なデータを収集できたが、学術的な成果を公にするところまでは辿り着くことができなかった。 その他、「記憶の教育学」の理論と実践について各種セミナー・研究会で報告する機会を得た(2021年8月20日の教職員支援機構における令和3年度防災教育推進セミナー、2022年3月12日の三田教育学会研究会など)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」で述べたとおり、研究活動自体は活発に行うことができた一年間であった。それにもかかわらず「やや遅れている」としたのは、演劇「あの夏の絵」に関する研究成果をまとめるという課題がなお残されたからである。2021年度も新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、具体的な調査を実施することに苦慮したことが多々あった。国内外の関係者との情報交換などは、オンラインの活用に慣れてきたこともあり2020年度と比較すると順調であった部分もあるが、なお研究遂行上のもどかしさが残った。 具体的な研究活動を行ううちに研究計画時に考えていたよりも「記憶の教育学」の幅が広がり(その成果は2022年度刊行予定の論集で公にする予定である)、その分多くの労力を要することになったが、研究の深化に資する変化であったと受け止めている。
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今後の研究の推進方策 |
具体的には三つの目標を立てている。(1)エアル『集合的記憶と想起文化』の邦訳書を刊行する。(2)「記憶の教育学」論集を刊行する。(3)演劇「あの夏の絵」に関する理論的および実践的な検討を遂行する。(1)および(2)についてはすでに準備が整っている。2022年度は第三の目標を達成して、その成果を公にしたい。本科研全体の成果を国外の学会大会などで公にしたいと考えているが、新型コロナウイルス感染症の状況をみながらその実現可能性については慎重に検討することとする。 いずれにしても、以上の成果をもとにして国内外の「記憶の教育学」に関する共同の研究基盤を形成したい。国外に関してはとくに研究代表者がこれまでも積極的に情報交換を行ってきたドイツ人研究者(フランクフルト大学のアストリッド・エアル教授、ドルトムント工科大学のローター・ヴィガー名誉教授、テュービンゲン大学のマルクス・リーガー=ラーディヒ教授)との連携を深めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の影響を受け、当初計画していた研究調査をすべて終えることができず、そのために同調査を遂行するために要する費用が残った。
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