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2019 年度 実施状況報告書

社会的困難を生きる韓国の若者のキャリアパス構築に関する実証的研究

研究課題

研究課題/領域番号 19K02520
研究機関北海道大学

研究代表者

宋 美蘭  北海道大学, 教育学研究院, 専門研究員 (70528314)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2023-03-31
キーワード韓国 / オルタナティブスクール卒業生 / 社会的困難を生きる若者 / 卒業後の移行 / キャリアパス支援
研究実績の概要

本研究の目的は、社会的困難を生きる子ども・若者、すなわち、制度の学校教育路線とは異なる学びの経路を歩んできた、韓国のオルタナティブスクール(代案学校、以下、ASとする)に焦点を当て、卒業後の彼・彼女らのキャリアパス構築に関する実態分析とその支援のあり方について実証的に明らかにすることを試みている。
本科研の初年度である2019年では、社会的困難を生きる若者に関する先行研究のレビューおよび、実際に、本研究の研究協力者(ミンドゥレ学校長金氏及び韓国放送大学チョン教授)を対象に、AS卒業生のその後の実態と現状について聞き取り調査(2019年9月、10月)を実施した。また、実際に幼・小・中・高校、すべての教育過程を一般の制度上の「学校」とは異なる「経路」を歩んできたAS卒業生当事者Hさんに2回にわたり聞き取り調査を行った。今回の調査から次の点が把握できた。第1に、多くのASが抱えている課題(とりわけ制度外AS)では、ASで学んだ後、すなわち、卒業後の移行問題が深刻であることが浮き彫りになった。彼・彼女らは卒業後の移行段階の直線的かつ安定的な進路及び仕事への移行に大きく動揺し、社会への移行が長期化するとともに、標準的な移行ルートから外れ、失業や非正規の仕事を繰り返したり、無業化する若者が急増していることが明らかになった。そして、AS卒業生Hさんの聞き取り調査からは、「学校」を卒業した後、いざ社会と向き合った時に、主流社会が求められる「学校歴」や「学歴」という、いわゆる一般社会が価値としている問題に直面していたこと。『非主流教育』を受けてきて、自分たちはそうした主流価値に対抗してきたにも関わらず、いざその現実を目の当たりにした時に、主流価値の前に「揺らぎ」、また「不安」を感じ、結局は主流価値に妥協、同化されてしまい、主流社会に負けてしまう困難さを抱えていたことも同時に明らかにされた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

2019年度は、当初の研究計画通りおおむね順調に進展していると思われる。本研究は、これまで、既存の教育制度では包摂しきれない子ども・若者を対象に彼・彼女らの生き方を支える多様な学びを保障する包摂的な教育に必要な原理・条件、またそれを可能とする教育実践とその内実を、タイプの異なる数多くのASを調査してきた。この研究を、科研「多様な学びを保障する包摂的な教育基盤構築における原理・条件に関する日韓比較研究」(基盤(C))・課題番号(16K04522)、H28~30、代表者:宋美蘭)にて遂行した。
本研究はこれまで取り組んできた以上の研究の上に位置づいており、研究をさらに発展させるものである。今後の研究では、競争原理を超える学びの実現を目指し、子どもたちの生き方を支えるASの実践は果たして学んだ後の持続可能な移行性をもつものであるのか否か、AS卒業性の移行問題を詳細に検討するものである。
2019年度の成果は以下の通りである。まず、①日本教育学会(第78回大会)@学習院大学(2019年8月5日(月)~8日(木))大会に参加し、「韓国におけるオルタナティブスクールの実態と課題-オルタナティブスクール卒業生の社会への移行の困難さに注目して-」というテーマで【自由研究発表:テーマ型研究発表】セッションにて報告を行なった。そして、②オルタナティブ教育研究会@大阪府立大学I-site(9月5日)にて参加し、「社会的困難を生きる韓国のオルタナティブスクール卒業生の実態-『非主流社会』を生きるAさんのインタビューを手掛かりに-」というテーマで報告した。③第11回韓国平生教育学会/日本社会教育学会学術研究大会(国際学会)に参加し、「新しいグローカル市民性の基盤としてのオルタナティブスクール」というテーマで、日韓の両国の研究協力者とともに共同研究発表を行なった。

今後の研究の推進方策

研究2年目である、2020年度には、AS卒業生の進路実態及び困難な内容をAS類型別共通点と差異を浮き彫りにし、調査から得られたデータに基づき、卒業生の進路状況(大学進学か企業就職、社会的企業など)をアンケート調査によって明らかにすると同時に、彼・彼女らが、キャリアパス構築のために、現在抱えている困難とは何か、その困難の内容を浮き彫りにすることを目指している。しかし、今後新型コロナウィルスの収束への見通しが立たない状況の中で、以上の調査は大変難しい状況が予想されるが、2020年度については主に、以上の課題に関する文献調査および先行研究のレビュー、論文執筆(教育学研究への投稿など)、図書出版刊行を中心に研究を進める。とりわけ、2020年度は、これまでの研究の一つの集大成として、『韓国のオルタナティブスクール ー子どもの生き方を支える「多様な学びの保障」へ」』というテーマで、東京の明石書店にて、出版を予定としている。なお、本学術図書は、2020年度研究成果公開促進費(図書出版)(課題番号: 20HP5206)採択により遂行するものである。

次年度使用額が生じた理由

2019年に、AS研究、社会的包摂問題、若者研究に関する資料収集・分析した上で、後半には行政・関連団体・AS調査に着手するために、①日韓国会図書館及び、中央図書館にて資料収集、②教育部(韓国国家行政機関)、③全国AS連帯組織である、「代案教育連帯(ソウルおよび地方都市)」、④これまで訪問してきた、AS管理職・校長にその協力を得て、2020年2月および3月に実態調査を行う予定であったが、新型コロナウィルスの影響で実施ができなかったため、これらの研究計画を2020年度以降に実施することに変更している。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2019

すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] 韓国におけるオルタナティブスクールの実態と課題 ―オルタナティブスクール卒業生の社会への移行の困難さに注目して―2019

    • 著者名/発表者名
      宋美蘭
    • 雑誌名

      日本教育学会大会研究発表要項

      巻: 78 ページ: p.144-145

    • DOI

      https://doi.org/10.11555/taikaip.78.0_144

  • [雑誌論文] 新しいグローカル市民生の基盤としてのオルタナティブスクール2019

    • 著者名/発表者名
      宋美蘭・若原幸範・ハン・ビョル・チョン・ミンスン
    • 雑誌名

      日本社会教育学会・韓国平生教育学会研究論文論

      巻: 1号 ページ: p.44-55

  • [学会発表] 韓国におけるオルタナティブスクールの実態と課題 ―オルタナティブスクール卒業生の社会への移行の困難さに注目して―2019

    • 著者名/発表者名
      宋美蘭
    • 学会等名
      日本教育学会(第78回)@学習院大学
  • [学会発表] 社会的困難を生きる韓国のオルタナティブスクール卒業生の実態-『非主流社会』を生きるAさんのインタビューを手掛かりに-2019

    • 著者名/発表者名
      宋美蘭
    • 学会等名
      オルタナティブ教育研究会@大阪府立大学I-site
  • [学会発表] 新しいグローカル市民生の基盤としてのオルタナティブスクール2019

    • 著者名/発表者名
      宋美蘭・若原幸範・ハン・ビョル・チョン・ミンスン
    • 学会等名
      日本社会教育学会・韓国平生教育学会研究大会(第11回)@韓国中央大学
    • 国際学会 / 招待講演
  • [図書] 『SDGsと学校教育 教職概論 「包容的で質の高い教育」のために』(第7章コラム執筆)2019

    • 著者名/発表者名
      宋美蘭
    • 総ページ数
      p.183-183
    • 出版者
      学文社
    • ISBN
      978-4762029158

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公開日: 2021-01-27  

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