研究課題
本研究は、理工系分野での女性研究者における「無意識のバイアス」が、キャリア形成や健康へ及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。本研究により、理工系分野の女性研究者の増加を阻む社会的要因について評価することで、ダイバーシティ(多様な人材の登用)を進めるための実効的な対策に資することが全体構想である。初年度は、女性研究者の就労実態や、研究現場での「無意識のジェンダーバイアス」に関する文献的な情報収集を行い、先行研究の分類と結果の要約を行った。わが国では無意識バイアスは「ダイバーシティ政策」の導入に伴って注目された経緯があるため、学術論文以外の出版物、政府刊行物(白書、調査報告等)なども含めた資料検索を行った。これらより、女性研究者の就労や昇進等においては男性のみならず女性自身でも「女性はリーダーシップを取りたがらない」「子育て中の女性には責任ある地位を任せることは重荷となる」などの認識が強い可能性があることが示唆されたが、いっぽう、それらが健康に及ぼす影響については、初年度のレビューのみでは明らかなものは見いだせなかった。わが国における無意識バイアスに関する文献資料はいまだ少なく、次年度以降も学術研究をはじめとする文献調査を継続する必要があると思われた。
3: やや遅れている
初年度は、次年度以降の量的・質的研究を行うための先行研究のレビューを行ったが、この分野に関する調査資料は十分ではなく、特に女性割合の少ない理工系学術分野に関する情報が少なく、十分な検討ができたとは言えない状況である。その理由としては、「女性労働者に対する無意識バイアス」という概念自体は以前からあるとしても、実際にそれらを可視化し、改善すべきアジェンダとして取り上げようとする動きは始まったばかりであるという事情が挙げられる。従来、女性労働者支援の主体は妊娠・出産に伴う休暇の保証や保育施設の整備などの子育て支援であり、それらが必要であることは論を待たないとしても、「女性研究者への無意識バイアスを改善する」という点においていかなる効果があるのか、それらによりキャリア構築(昇進等)が有意に改善されているのか、等について引き続き資料をもとに調査する必要があると思われる。
今年度以降も、先行研究のレビューを継続しつつ、理工系分野での女性研究者の無意識バイアスに関する実証研究(量的・質的研究)を進める。また、理工系の科学技術専門職が運営する男女共同参画学協会が実施した大規模アンケートの複数年データを用いて、研究者のキャリアパス(昇進)に関連する要因について無意識バイアスの影響を含めた分析を行う予定である。さらに、同協会の加盟学会員で協力が得られた研究者へインタビュー調査(半構造化面接)を行うための質問票を作成する予定である。
初年度の研究実施状況が、調査文献の収集が難しいことで予定よりもやや遅れている。そのため当初予定したより執行額が少なくなり、当該助成金が生じたものである。それらについては翌年度分の助成金として請求し、研究課題を継続するために用いる。具体的な研究遂行予定としては、先行研究のレビューの継続および、理工系の学術専門職による既存アンケートのデータベースの解析(次年度は解析のためのデータ取得や倫理委員会への申請等が主体となる予定である)、および理工系研究者を対象としたインタビュー(次年度はインタビューのための質問紙の作成や倫理委員会への申請等を含む)を予定している。
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