本研究は、スウェーデンにおける女性運動が人々の意識や行動特性の変化にいかに関与し、女性の社会参加にいかに寄与してきたのかを解明することを目指すものである。同国におけるジェンダー秩序は1960年代の制度改革を経て劇的に変化したが、先行研究ではその要因として女性運動の組織率とその社会的影響力の大きさが指摘されてきた。これをふまえ、本研究ではスウェーデンの女性運動がいかにして強い影響力を持ちえたのか、ジェンダー秩序の転換に向けての人々の意識の変化はいかに進行していたのかを解明することを目指した。 2022年度までの成果として、1930年代から1950年代にかけての専業主婦の急増と1960年代におけるその急減の過程を分析し、良妻賢母イデオロギーの質的変容とそれに伴う家事改革の様相を描いた単著を2023年3月に刊行した。その過程で、20世紀半ばまでの多様な女性運動において展開したリプロダクティブ/セクシュアル・ライツ獲得に向けた動きを分析することが本研究課題にとって不可欠であることが明らかとなったが、当初予定していた研究期間内にこの点についての分析を終えることができなかったため、補助期間を1年延長して取り組んだ。 2023年度夏季に実施した現地調査においては、当時の運動において蓄積された知見や組織的基盤が現在もなおジェンダー平等に向けた現運動において重要な役割を果たしていること、それがフォーマル/ノンフォーマルな教育実践に受け継がれていること等も明らかとなった。これをふまえて、新たな研究課題としてこれらの運動の現在に至る展開を探る作業に取り組むこととし(基盤研究C24K05760「コミュニティを基盤とするセクシュアリティ教育の社会運動史的研究」)、2023年度の成果はこの研究課題における作業とあわせて2025年度刊行予定の単著にて発表することとした。
|