研究課題/領域番号 |
19K02528
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
田中 理絵 山口大学, 教育学部, 准教授 (80335778)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 児童虐待 / 社会化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は「被虐待児童」と社会的に認知されるに至った子どもと過去に被虐待経験をもつ成人を捉えて、児童虐待経験者の社会化過程を長期にわたって解明することである。これまでアプローチの困難性から捉え損ねてきた虐待経験者(=当事者)の視点に焦点を当て、彼らがどのような社会化を経て親になるのかについて、丁寧な生活史調査から解明していく。同時に、虐待対応・支援機関の連携を阻む要因の特定も目指す。具体的には、教育・福祉・医療・法機関の虐待問題の担当者・専門家へ面接調査を実施し、概念創出法によって虐待対応に関するそれぞれの機関の目標・手立て・限界の共通点と相違点を比較分析する。 これら調査分析は虐待の再生産の問題解明の糸口にも繋がり、児童福祉等の現場に対しては応用可能で有益な知見の提示が、学術的には「児童虐待と子どもの社会化」研究の理論的発展を目指すことが可能になると期待できる。 令和元年度(2019年度)、中心となった調査は、①児童虐待対応が最も多い年齢層である小学校の教員へのインタビュー調査である。公立小学校にお願いして、ランダムに10名の先生へ過去の体験について聴取りを行い、また虐待対応の窓口を置いている小学校では担当者へ面接調査を実施した。これらは、すべて承諾書を頂いた上で録音しており、現在、そのテープ起こしデータを分析中である。 また、②児童虐待の被経験者で、現在は成人して家庭を築き、子どもが生まれた方とのラポールづくりを行い、生活に関するインタビューを実施した。さらに、③児童相談所で児童福祉分野でスーパーバイザーをされている方、同様にソーシャルワーカーで児童福祉・学校教育分野でスーパーバイザーをされている方々と複数回にわたり面談させていただいた。②③は、次年度以降、ICレコーダーを用いたインタビュー調査を実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、当事者の主観から長期にわたる生活過程(社会化過程)を実証的に捉えることを中心にしている。児童虐待の被害者は、まさに子供であるがゆえに、被害をうけている最中は、その程度・抜け出す見込みなどについて客観的に考えることができない。他者に伝えることも難しい場合が多く、成人後はさらに語りたがらなくなる傾向が見られる。 本研究は、ひとのそうしたナイーブな側面にアプローチすることから、十分なラポールの形成が必要不可欠であり、機縁法などを利用して、信頼して頂いた方から他の被験者を紹介して頂く方法を取っている。その対象者は全国に散らばっており、そのため時間を掛けて地道なラポール形成を行っており、年度後半に聴き取り調査の開始を計画していた。しかし、コロナウィルスの問題が生じて移動制限がなされたことから、予定していた調査が延期となっている。 同様に、児童相談所およびソーシャルワーカーのスーパーバイザーに対してインタビューは実施したものの、コロナウィルスによる学校閉鎖などによって、そうした専門職は平常時以上に忙しくなっており、本調査は未実施となっている。対象者が通常業務に戻るまでは、理論研究に取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
【実証研究】面接調査等による生活史事例の蒐集 研究1.1 子ども期に虐待を経験した成人-特に、現在家族をもって子育て中の者-を対象に面接調査を行う。その際、虐待経験者の社会化の類似性の条件検討も試みる必要があり、実際に経験する類似性なのか、あるいは虐待被害者が作り出すストーリーの類似性なのかを検討しながら分析を試みる。 研究1.2 児童虐待の対応・支援機関への面接調査:被虐待児童は、子どもであるが故に自分の生活をコントロールする力を持たず、支援機関の対応・考え方に大きく依存せざるを得ない。令和2年度は、特に身近な存在である教員と児童相談所の児童福祉司への聴き取りを実施する。最初に対応に当たる方たちが、児童及び加害者である親に対してどのように対応し、虐待を発見し、子どもを救済しようと試みるのかに焦点を当てる。なお、既に予備調査を終え、調査協力はいつでも得られる準備を整えている。 【理論研究1.3】被虐待経験は、家族内の心理的・身体的被害だけでなく、他者(社会)から如何なる者として扱われるのかという社会的問題でもある。こうした類似性の諸要因を実証研究から抽出し、それぞれを歴史的・社会的背景のもとで考察する必要がある。令和2年度は、主に「虐待再生産論」に関する言説分析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度はラポール形成をした後に、年度後半から面接調査を実施する予定であり、そのための旅費と謝金、記録機材等を必要とした。しかし、コロナウィルスによる移動の自粛・規制などにより、2020年1月以降は調査が難しくなっており、旅費・謝金・物品費を繰り越した。 延期した調査は、社会情勢が落ち着き次第実施する予定であり、相手からの承諾も得られている。
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