研究課題/領域番号 |
19K02529
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
柳林 信彦 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 教授 (30516109)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 教育委員会制度 / 地方教育行政機構 / 分権的教育改革 / 首長と教育委員会 / アメリカ教育改革 / システミック・リフォーム |
研究実績の概要 |
本年度においては、前年度に引き続き、これまでの研究において構築してきた、分権改革・地方創成時代の首長と教育委員会との関係に関する理論的枠組みを活用し、高知県を対象として首長が教育施策に大きく関わった事例を対象として取りあげ、首長と教育委員会との関係の分析を行い、その成果を用いて研究視角の精緻化を進めた。 具体的には、教育委員会制度改革とそれ以降の高知県の教育施策において、首長の関わりが明確に見て取れる事例として学力向上対策と総合教育会議の導入とを取りあげ、首長と教育委員会との関係と教育施策との関係について考察を行った。考察からは、教育への関心が高い首長のもとでは、「総合教育会議」の設置で首長の教育改革意欲と教育行政への影響も高まるが、自治体行政全体における教育施策の質量の増加もみられ、全体として教育改革の推進力となる事、そうした中で教育委員会の専門性の発揮が、特に重要であることが確認された。 研究の成果は、以下の論文にまとめて公表した(柳林信彦他「教育委員会、首長・議会、教員の関係構造からみた高知県の教育改革-土佐の教育改革以前・以後、学力向上対策、総合教育会議の導入期を中心に-」『高知大学学校教育研究/第3号』2021年3月、pp.295-302.:柳林信彦他「総合教育会議導入による教育政策過程の変化-高知県における教育政策の進捗管理としての役割に焦点を当てて-」『高知大学学校教育研究/第3号』2021年3月、pp.303-310.)。 次に、具体的な研究対象事例の一つであるケンタッキー州については、新型コロナウィルス感染拡大予防の観点から、当初予定していた補助調査を中止し、前年度の現地調査で収集した資料の整理と分析を中心として行い、ケンタッキー教育改革法(KERA)において、システミック・リフォーム改革の中における教育行政制度改革の位置づけと特徴の解明を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度においては、首長-教育委員会関係分析についての理論的枠組みの精緻化と構築した分析視角を用いたデータの分析を試行しての分析視角の修正と深化を計画していた。本課題に関しては、高知県の首長が大きく関わった教育改革施策を事例とした分析と分析成果の論文としての発表という形で進めることができた。 また、本年度の2点目の計画であるアメリカケンタッキー州の教育改革施策(KERA)に関する二次調査は、新型コロナウィルス感染拡大予防の観点から実施しなかったが、これまで構築してきたシステミック・リフォームに関する理論的な分析枠組みを用いて収集した資料の分析を行うと共に、KERAにおける教育行政制度改革についての分析を進めることができた。 以上のように、ケンタッキー州の2次調査は実施できなかったが、本研究の最終的な研究課題である「日本の教育委員会が、地域の教育課題を解決しうる組織となるための方途、また、そのために必要とされる首長と教育委員会の関係構造の在り方」に関して、高知県の具体的な改革施策を通した分析が進んだことや、前年度までに収集した資料に基づきケンタッキー州の事例分析を一定程度進めることができたことから、本研究の現在までの進捗状況は概ね順調に進展していると自己評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度においては、本研究の2019・2020年度の活動で明らかとなった知見を活用して、分権改革における首長と教育委員会の関係の在り方と改革を効果的に遂行するための改革戦略を明らかにすることを通して、地方創生・分権改革期の地方教育行政機構の在り方の解明に当たる。 また、2020年度において実施しなかったケンタッキー州の教育改革に関する事例分析(教育行政機構改革、知事の影響力、改革戦略を中心に)に関して、2020年度までに得られた事項を参考にしつつ、二次調査を実施する。 最終的には、それらの知見を総合し、改革の波にさらされている日本の教育委員会が、地域の教育課題を解決しうる組織となるための方途、また、そのために必要とされる首長と教育委員会の関係構造の在り方、そして、それらを含んだ、分権的教育改革の効果的な遂行のための地方教育行政機構の在り方を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度の計画に基づく経費執行に関して未執行額があるが、これは、新型コロナウィルス感染拡大予防の観点から渡米調査を行わなかったこと、及び、文献及び資料収集が当初の計画よりも若干遅れたことによる。ただし、このことは、研究の推進には大きな影響を与えていない。 現在の研究計画上、ケンタッキー州の現地調査実施、及び、上記した資料の収集は、全体の研究計画の推進には必要なものであるため、未執行額は2021年度中に現地調査のための旅費、及び、文献資料の収集のために使用する予定である。また、それを除いて、次年度の研究は、当初の予定通り進める予定である。
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