研究課題/領域番号 |
19K02532
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研究機関 | 石川県立大学 |
研究代表者 |
石倉 瑞恵 石川県立大学, 生物資源環境学部, 准教授 (30512983)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ジェンダー / 再生産 / 大学生 / メディア / 文化受容 / 内在化 |
研究実績の概要 |
日本の大学生の意識を形成する若者文化、大学生を通して再生産されるジェンダー・イメージを質問紙等の調査を通して明らかにした。また、次年度以降実施するチェコ調査に備え、チェコの女性文化、ライフ・コースの特質を他の東欧(旧社会主義)諸国との比較を通して検討した。 調査結果は、他者受容の着眼点、内在化する価値観、ライフ・コース認識、家庭領域への認識という点から分析し、日本教育学会、および石川県立大学研究紀要においてその成果を発表した。得られた知見は以下のとおりである。 大学生は、幼少期から親しんだ文化・メディアの中で表象されている古層としての性役割やジェンダー・イメージを内在化している傾向にある。そのイメージに基づいて多様なメディアからモデルを模索する。芸能、漫画・小説、ユーチューブ等のメディアにおいて固定観念が多く見出せることを認識し、否定的評価を下しつつも、自らのモデルには、芸能人やアニメ・ドラマの架空人物を選択する傾向が見られた。男子学生は人間関係における位置づけに着目し、架空世界や現実世界の同性の中に自己の理想を見出すが、女子学生は、リーダシップなど人間関係における位置づけという点では異性である男性をモデルとして挙げる傾向にある。集団内における位置づけモデルが女性に見当たらないことが要因と考えられる。また、女子学生は、「女性的」外見や雰囲気からのみならず、それとは対照的な「男性的」雰囲気、自己の確立という観点から女性に理想を見出す傾向にあった。リーダシップにおける女性モデルの不在は、女性が主役になる生き方の得難さや困難さの認識に通じており、ゆえに強い女性、自己が確立している女性モデルを模索すると考えられる。すなわち、女子学生には、主流に依ったイメージを内在化しつつも、脱主流イメージを志向する葛藤が生じることが認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「やや遅れている」と判断するのは、COVID-19により海外渡航が不可能となり、予定していたチェコ調査を実施し、若者文化観察、若者文化を知る手掛かりとなるメディア・資料収集ができなかったことによる。 しかし、日本での調査からは計画していた以上の分析と考察結果を得た。大学生の表面的な興味関心のみならず、意識の深層を分析することができたからである。また、当初は女子学生にのみ実施予定であったが男子学生も調査対象とし、メディアを通して伝達される男性のジェンダー・モデルと女性のジェンダー・モデルの比較、男子学生と女子学生が内在化する役割とモデルについて比較分析をした。その結果、女子大学生の認識、受容する文化の特質を一層顕在化させることができた。意識の深層を分析する質問として、女性統治者のストーリーを提示し「その後」を問う記述式質問を導入した。ここで女子学生が「独身」を選択した理由には、「孤高、強く」が、「結婚」を選択した理由には「恋、大切な人」が挙げられる傾向にあり、「強さ」と「家庭」が両立されえない価値観として内在化されていることが示された。結婚後のライフ・コースを思い描く時、女性がリーダシップを担うシーンに直面した時に、女性的価値観と男性的価値観との間で葛藤する傾向が女子学生に強く認められた。 また、チェコ調査の代替として、チェコ女性文化の特色を旧社会主義東欧諸国との比較から明らかにした。同じ社会主義圏ながら、マリア信仰の影響力が衰えず、宗教組織および社会主義的信条をベースとする組織と女性団体が二分していたポーランド、あるいは人口の8割が農業に従事し伝統的な農村文化の影響が強いルーマニア等と比較すると、それぞれに異なった女性文化が形成されていることが明らかになった。この知見に関しては今年度の学会発表等において発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き今年度も国外への移動が困難な社会情勢にあるので、チェコ調査実施のための研究期間延長を念頭においている。しかし、この先2年間海外渡航が困難であるとも想定されるため、日本国内からチェコ調査を実施する方策を合わせて検討している。 今年度の研究の主たるねらいは、チェコの女性文化(児童文化・若者文化を含む)の実像を明確にすることにある。昨年度は、現チェコにおける社会・文化の深層の一部をなす社会主義の遺産に着眼し、旧社会主義国との比較に基づいて、チェコの女性文化およびジェンダー・イメージの特色を明らかにした。社会主義政策によるジェンダー・イメージとチェコ女性団体等が作り上げた主体(あくまでも社会主義体制によりそった上での主体)的ジェンダー・イメージとの間に齟齬があった点、宗教および産業構造は社会主義圏において一様ではないがために、女性が社会主義を内在化する程度とその解釈は多様であり、チェコは他の東欧諸国とは異なるジェンダー・イメージを形成していた点を明らかにした。その視点から、現在のチェコ女性文化、若者文化を分析することが有意である。分析材料としての若者文化(雑誌やウェブ情報、テレビ番組等)は、これまでの現地調査から得た情報入手網を活用し、インターネット等を通して購入、収集する予定である。また、入手したメディア媒体、あるいは大学関連の情報ソースから、大学生の過ごし方、関心のある情報、女子大学生が抱くジェンダー・イメージおよび内在化する価値観等についての分析を行う予定である。 同時に、昨年度日本の大学生を対象として実施した調査をチェコ向けに改編し、チェコ国立コンタクト・センター、ジェンダー研究所等に内容・実施に関する助言を求め、試験的な調査実施の可能性を探る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度予算にはチェコ調査費用(渡航費、文献収集費)が含まれていたが、COVID-19の影響でチェコ調査が実施できなかった。また、学会発表等の国内旅費も含まれていたが、学会発表はリモート発表形式で行われたため、国内旅費として使用することがなかった。したがって、主としてチェコ調査費分として次年度以降への持ち越しとした。持ち越し分に関しては、研究期間を延長した令和4年度にチェコ調査を実施する予定であるので、その際の旅費として使用する。しかし、社会情勢が変わらず、海外渡航が困難なようであれば、本来チェコ調査において収集できる資料や情報を日本国内から収集・購入する費用として用いることとなる。
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