チェコにおけるマスメディアの成立とメディアを通したジェンダー表象の特色・社会への影響力を明らかにし、日本との比較を行った。 現在のチェコのマスメディア、広告や雑誌等の普及は社会主義崩壊(1989年)後に端を発し、ジェンダー指向の文化を生み出したことを明らかにした。社会主義期には商品広告や多様な娯楽メディア、それを担う国内企業が存在しておらず、資本主義移行後の空白の市場に外資企業が参入した。社会主義期には女性らしさ・男性らしさを用いた表現が容認されなかったため、ジェンダーの差異を表現することは「自由」と受け止められたこと、自由化直後には検閲や規制、抗議団体が存在しなかったことが促進要因となり、過激な性描写、欧米では旧態となった男性らしさ・女性らしさが市場戦略として活用された。それは、性役割や男女間の権力関係を表象したものではなく、男女の身体イメージを商品に結びつける広告戦略や顧客拡大のための女性ライン・男性ライン商品展開であり、チェコ社会にジェンダー指向の需要とジェンダーをアイデンティティとする認識を生み出した。現在流通している雑誌カテゴリーを見てみると、女性向けには、料理・手芸・インテリア関連誌、次いで美容・健康・ライフスタイル関連誌が多数を占める。男性向けには、漫画(主として日本のコミックス)、ファッション・ライフスタイル関連誌の他、車、ゴルフ、釣り、フットボール等、男性向きとされる趣味分野を個別に扱った雑誌が多い。 チェコにおける女性のジェンダー・モデルには、社会主義期に形成されたよき母親像に加えて、思想統制の反動として形成された自由の象徴としてのフェミニティの側面がある。高度経済成長期に経済政策の一端として性役割が誕生した日本と比較するとジェンダー形成過程が重層的であり、資本主義移行後のジェンダー形成には国際化・自由化の含意があることを明らかにした。
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