研究課題/領域番号 |
19K02541
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
荒牧 草平 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (90321562)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ソーシャルネットワーク / 子育て方針 |
研究実績の概要 |
教育格差を生み出す背景要因として、従来の研究は、親の社会経済的背景や文化資本など、親が子どもに与える影響にのみ着目してきた。しかしながら、教育格差は、そうした「核家族枠組」にはおさまらない、親以外の親族や友人・知人などで構成される、親のパーソナルネットワークも影響している可能性がある。他方、パーソナルネットワークが人々の意識や行動に与える影響は、従来、ネットワーク構成員がもたらす資源やネットワーク内に共有された規範による制約からとらえられてきたが、egoがネットワーク構成員の地位や考え方を参照すること、すなわちネットワークの準拠枠機能によっても生じている可能性がある。 以上の問題意識に基づいて、本研究は、家族内外のパーソナルネットワークが親の教育態度に及ぼす影響を、ネットワークの準拠枠機能という観点から解明することを目的として設定した。また、2019年度の研究実施計画では、親の教育期待に対するネットワークの準拠枠機能の妥当性について検討することを課題とした。 以上の目的と計画に基づいて研究を進めた結果、親以外の親族や友人・知人の持つ学歴、および学歴達成に対する彼らの考え方が、親自身の学歴志向に影響し、それが教育格差の背景要因として作用していることを様々な調査データに基づいて実証的に解明し、『教育格差のかくれた背景:親のパーソナルネットワークと学歴志向』(勁草書房)と題する著書にまとめた。 また、親の教育態度とパーソナルネットワークとの関連を解明する研究過程の中で、2020年度の研究実施計画として設定していた、教育期待以外の教育態度に関する検討も進め、その成果の一部を、「子育て志向に対するソーシャルキャピタルの影響:地位達成志向と社会貢献志向に着目して」と題する論文にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究実施計画に基づいて、親の教育期待に対するパーソナルネットワークの準拠枠機能という見方の妥当性について検討を行い、『教育格差のかくれた背景:親のパーソナルネットワークと学歴志向』(勁草書房)という著書にまとめた。 本書の主な成果は以下のように表すことができる。1)教育格差の背景要因として、従来は、親の社会経済的背景や文化資本など、親が子どもに与える影響にのみ着目してきた。しかしながら、教育格差は、そうした「核家族枠組」にはおさまらない、親以外の親族や、親族以外の他者も影響していることを様々な調査データに基づいて実証的に明らかにした。2)パーソナルネットワーク論の知見も整理しながら、親以外の親族や親族以外の他者が教育格差に関与するメカニズムをとらえる枠組を呈示するとともに、その妥当性を実証的に検討した。3)「核家族枠組」を超えた教育格差のかくれた背景を指摘することによって、格差縮小を目指す政策や対策を、より実効性のあるものとする際に考慮すべき課題について、検討を行った。 以上の成果は、社会階層論やパーソナルネットワーク論の研究枠組に再考を促すという理論的貢献、教育格差には親のパーソナルネットワークも関与することを実証的に明らかにしたこと、格差対策が考慮すべき点を示した実践的なインプリケーションなど、様々な面で有意義な知見を提供するものである。 上記の書籍に加え、教育態度に対するパーソナルネットワークの影響を検討するプロセスの中で、学歴達成を通じた地位達成志向以外に、親が子どもに求める傾向とパーソナルネットワークとの関連を解明するという2020年度の研究課題についても研究を進め、「子育て志向に対するソーシャルキャピタルの影響:地位達成志向と社会貢献志向に着目して」という論文にまとめることができた。 以上のことから、当初の研究実施計画以上の成果を得たと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究実施計画に基づき以下の研究を実施する。 1)子どもの側が自分の進路や将来の職業を希望する際には、学歴達成を通じた地位達成を求める傾向(学歴=地位達成志向)だけでなく、職業を通じた自己実現や、社会的に承認されることを求めている面もあることが明らかとなっている。また、こうした子どもの志向性は、親の教育態度とも関連していることが予想される。旧課題において実施した調査には、上記のような学歴=地位達成志向以外の志向性に関する指標の情報も含まれている。したがって、このデータの再分析により、学歴=地位達成以外も含めた、多様な子育て方針や教育投資行動、志向性について検討を行い、これらとパーソナルネットワークとの関連を明らかにする。 2)親の教育態度に関する先行研究のレビューを通じて、上記以外にどのような調査項目を含めるべきかの検討を行う。 以上に加え、当初の研究実施計画では、第3の課題として、上記の結果をふまえた予備調査を行い、質問項目の妥当性を検討することとしていた。しかしながら、新型コロナウィルスの感染が拡大している現状をふまえると、2020年度中に調査を実施することが適当かどうか判断に迷うところである。したがって、第3の課題については、今後の状況をみて、予備調査を次年度に延期するか、規模を縮小して実施するかなどについて判断することとしたい。 また、2021年度以降は、それまでの成果をふまえて、様々な教育態度の決定に、家族内外のパーソナルネットワークが与える影響を解明するため、全国の様々な地域を対象とした調査を実施する計画である。ただし、新型コロナウィルスへの感染の状況および予備調査の時期によっては、本調査の時期も後ろ倒しにする可能性も残されている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画(申請段階)では、本調査の実施年にあたる2021年度の研究経費(直接経費)を約320万円としていたが、当該年度の交付予定額(直接経費)は約220万円であり大幅に減額されている。減額された経費では有意義な調査を実施できないため、2019年度と2020年度の研究経費を計画的に節約し、本調査の経費として充当することを計画している。
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