研究課題/領域番号 |
19K02541
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
荒牧 草平 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (90321562)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | パーソナルネットワーク / 参照機能 / ネットワークの影響 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、準拠枠機能を中心としたネットワークの多様な機能について、理論的・実証的研究を進めつつ、本研究課題の中心となる本調査を実施した。 具体的な研究成果は主に次の3点になる。 第1に、ネットワークの影響について理論的な整理を行った。ネットワークの「影響」とされる行為者間の類似性に対しては、もともと似た態度を持つ者同士が同類結合している(=交際相手の「選択」)に過ぎないのではないかという批判がある。そこで、ネットワークの「影響」をテーマとした理論的・実証的研究のレビューを行い、交際相手の「選択」だけでなく「影響」にも着目する必要があることを指摘した。また、フォーマルおよびインフォーマルなネットワークの影響に関する諸研究の知見を整理しながら、ネットワークの影響は「制約」「支援」「参照」「浸透」「居場所」の5つの機能として整理できることを明らかにした(『日本女子大学紀要』所収論文)。 第2に、全国規模の社会調査である「全国家族調査(NFRJ)」のデータを用いた実証研究を行った。家族社会学におけるネットワーク研究の焦点は、主に「育児期」の「母親」に対する「支援」機能に限られてきた。そこで「育児期から青年期」の子どもを持つ「母親と父親」を対象とし、養育態度に対するネットワークの「参照機能」を検討した。その結果、男女とも配偶者を参照することが受容的態度につながること、女性の場合は親族や子どもの友達の保護者を参照することが拒否的態度につながること、こうした性差は子育て関与の違いを反映していると考えられることなどを明らかにした(『家族社会学研究』所収論文)。 第3に、以上の成果をふまえて、ネットワークの5つの機能を検討できるような設計の社会調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究実施計画に基づいて、上記の研究実績に記載した、理論的・実証的研究を行うとともに、本調査を実施した。 本調査は次の2段階で実施した。まず、南関東の1都3県(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県)に居住する、小中学生の子どもを持つ母親を母集団と設定して、層化二段無作為法によって抽出した1,200名のサンプルに対して、郵送法による調査を行った。その結果、転居などによる調査不能をのぞく、1,984名のうち715名から回答を得た(回収率60.4%)。調査依頼を丁寧に行い、調査目的を説明するHPを事前に作成するなどの工夫により、完全な郵送調査としては比較的高い回収率を達成することができた。 第2段階の調査は、同じく小中学生の子どもを持つ父親を対象としたWEB調査になる。子どもの保護者を対象としたサンプリング調査では、9割以上が子どもの母親による回答となることが知られている。したがって、母親と同じ調査方法では父親から十分な回答を得ることが難しいと考え、調査会社の持つモニターから、条件に合う対象者を募集する方法を採用した。母親と同じく、南関東1都3県に居住する、小中学生の子どもを持つ父親に対して、なるべく各地域の現状を反映するように、居住地の都市規模と学歴分布を考慮してサンプル数を割り当て、496名から回答を得た。 その後、先に実施した母親調査のデータについて概要をまとめ、専用のホームページにて公表を行った。今後は、父親調査のデータも含めて分析を進め、学会発表と論文執筆を進めるとともに、これまでの研究成果をまとめた書籍を刊行するための準備を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に実施した、上記2つの調査について分析を進め、学会にて報告を行うとともに、論文を執筆していく。また、それらと平行して、これまでの成果をまとめた書籍の刊行準備を進める。 具体的には以下の手順で研究を進める。 1)前年度までに、パーソナルネットワークが子育て中の親の教育態度に与える影響について、一定の理解を得た。そこで、検討の範囲を広げ、親自身の理想の生き方や社会観とネットワークとの関連を検討する。その背後には、親の価値観や社会観は、子育て態度とも関連するという予測がある。 2)上記を含めて、これまでの研究成果、すなわち、育児不安・養育態度・子育てに対する価値志向・生き方や社会観と、ネットワークの状況やネットワークの多様な機能との全体的な関連を、多重対応分析を用いて明らかにする。 3)昨年度までの成果によって、書籍の全体の3分の2は完成しており、出版社とも相談しながら、準備を進めているところである。2022年度中に予定している上記2本の論文を再構成して書籍に組み込み、刊行の準備を進める。
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備考 |
調査協力者に調査の目的や結果の概要を知らせるためのページ
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