2022年度の前半は,前年度に収集したドイツとオーストリアの政治科教科書の比較分析を継続して進め,それまでの教育課程基準を対象とした比較分析の結果とは異なる様相をそこに見出した。特にオーストリアに比べて政治科の教育課程の開発が遅れたプロイセンでも,20世紀初頭には事実上の政治科教科書が出現しており,また歴史教科書に政治教育の内容が含まれていることが確認された。これは,同時期の歴史の教育課程基準に,対応する記述が見られないことをふまえると,解明すべき新たな研究課題が生じたことを意味する。 また教科書の内容分析を進める過程で,従来曖昧だったStaatsbuergerkunde(国家市民科ないし公民科)とBuergerkunde(市民科)という政治科のルーツにあたる2つの名詞が持つ意味合いの違いが明らかになった。 なお,以上の成果については,日本カリキュラム学会第33回大会(名古屋大学Web大会)で報告し,さらに早稲田大学大学院教育学研究科紀要でも発表した。 他方,年の後半は,バイエルン州立図書館,ベルリン州立図書館ならびにライプニッツ教育研究所教育史研究図書館において,教科書・教材等の収集を継続するとともに,戦前のドイツで(バイエルンとプロイセンを中心に)刊行された教育雑誌における政治教育関連の論文を収集したうえで,その分析を進め,第一次世界大戦からヴァイマル共和国へという時代の転換のなかで,今日につながる国家市民科理解が形成される様子を確認した。
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