研究課題/領域番号 |
19K02553
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
額賀 美紗子 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 准教授 (60586361)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 移民の子ども / 親の教育関与 / 家族支援 / 家族ー学校ー地域の連携 / 文化的に適切な教育 / アメリカ / 国際比較 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、移民の親の教育関与の多様な実態とメカニズムを解明し、学校と地域のネットワークにおいて移民の親の教育関与を促す文化的・構造的条件について日米比較の視点から明らかにすることである。初年度にあたる2019年度は、日米両国においてデータ収集を実施し、分析を進めた。 日本では、外国人支援団体で以前より継続しているフィールドワークを実施するとともに移民第一世代の母親10名への半構造化インタビューを行い、特に移民の数が少ない非集住地域における母親たちの育児困難と支援の現状を明らかにした。また、学校に母語支援者として勤務する移民女性たち5名に半構造化インタビューを実施し、彼女たちが果たす学校と移民コミュニティの仲介者としての役割について、日本社会の受け入れコンテクストに注目した分析を行った。 アメリカでは4月と11月にサンフランシスコ学区において各10日間のフィールドワークを実施した。移民が多く、文化的・言語的支援を行う公立小・中・高校10校を訪問し、授業の参与観察および校長、教師、コミュニティ仲介者への半構造化インタビューを行った。そのほか、教育長事務局職員や移民教育および移民家族支援を担当する複数の部署の職員にもアクセスして半構造化インタビューを実施し、特に市場型教育改革とトランプ政権以後の排外主義の高まりが、移民生徒の教育機会と移民家族の包摂に及ぼす影響および、それに対する行政・教育現場レベルの認識を考察した。 以上の分析結果については、World Education Research AssociationとComparative and International Education Societyの国際学会で報告したほか、異文化間教育学会のジャーナル『異文化間教育』の研究論文および書籍2冊(共編著1、分担執筆1)において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度はアメリカ・サンフランシスコ学区におけるフィールド調査が大いに進展し、予定していた以上のデータ収集を実施することができた。教育長事務局職員A氏とラポールを築くことができ、A氏の案内で移民の受け入れ校になっている小・中・高校を訪れ、授業観察および教員へのインタビュー調査を行った。またA氏には移民教育にかかわる担当部署も紹介してもらい、複数の職員にインタビューを実施することができた。また、サンフランシスコ州立大学やミルズカレッジの研究者と親睦を深め、学区の教育に関する意見交換をするとともに、かれらが調査を行う学校に同行して教員研修の場に参加させてもらった。2回の渡米調査を通じて、生徒の出身階層や人種構成の面で異なる公立学校10校を訪問し、行政・現場レベルの声を聴けたことの意味は大きく、学区の全体像を把握すると同時に、学区内部の不平等構造を分析する視点を定めることができた。 また、日本においてもデータ収集が順調に進んだ。移民の数が少ない自治体におけるフィールドワークを継続し、特に「外国人の母親のための育児サロン」への定期的な参加を通じて移民の母親や日本人支援者とのラポールを築き、家庭での参与観察や複数のインタビューを実施することができた。また、学校で母語支援者を務める移民女性たちにアクセスして探索的インタビューを行えたことも収穫であり、来年度の本調査に向けてインタビューガイドラインを決定することができた。 分析も順調に進展しており、成果を国際学会2件のほか、ジャーナル論文1本、書籍2冊にて公表した。国際学会では複数の視点から多くの質問を投げかけられ、海外の研究者と知り合い国際的な研究ネットワークを広げる契機ともなった。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナ禍の影響により、当分の間は海外調査が困難になると思われる。また、国内においても学校訪問はしばらく難しいと予想される。そのため、来年度の前半はまず、今年度アメリカにおいて収集したデータの分析を進める。サンフランシスコ学区を事例にアメリカにおける文化的多様性のポリティクスや、移民家族に対する「支援」の制度、実践、意味付与について日本との比較視点から特徴を明らかにし、論文として発表する。 調査については、(オンラインによる)国内でのインタビューを進めていく。特に、学校での母語支援者や地域の活動において積極的な役割を果たしている移民女性たちを対象に、日本への移住・定住過程と文化媒介者としての経験に関するライフストーリーインタビューを行う。すでに数名の協力者がおり、今後は雪だるま式にケースを増やしていく予定である。また、現在子育て中の移民の母親にもアクセスし、新型コロナ禍による生活や子育ての影響について(オンライン)インタビューを通じて把握する。収集したデータについて分析を行い、論文としてまとめる。 パンデミックの状況が改善された後は、アメリカ調査を今年度後半に実施する。今年度訪問した移民受入れ校においてインテンシブな参与観察を行い、移民家族に対する学校を中心とした福祉・教育面での支援およびその課題について考察する。特に、母語支援と家庭支援に注目し、文化的に適切な教育(culturally relevant education)について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
インタビューの文字起こし費用として年度末までセーブしておいたが、新型コロナ禍の影響によりインタビューの実施ができず、残額が生じてしまった。
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