研究課題/領域番号 |
19K02553
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
額賀 美紗子 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 准教授 (60586361)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 移民の子ども / バイリンガル教育 / 市場型教育改革 / 排外主義 / マイノリティ言語 / 多様性 / 複合的困難 / コロナ禍 |
研究実績の概要 |
本年度の研究実績は以下に集約できる。 第一に、前年度までにアメリカ・サンフランシスコ学区で実施したフィールドワークのデータ分析を進めた。市場型教育改革とトランプ政権下の排外主義が当該学区のバイリンガル教育に与えた影響を分析し、マイノリティ言語をめぐるポリティクスという視点から移民生徒の教育機会の現状を考察した。論文としてまとめ、『教育社会学研究』に掲載された。 第二に、前年度までに進めてきた、フィリピン系を中心とする在日移民家族へのインタビュー調査をもとに、移民家族が日本社会で直面する複合的困難について分析を進め、移民生徒の学習困難を理解するための理論的枠組みをデータから導出した。家族の自助努力を前提とするマジョリティの価値規範と外国人に対する差別構造の中で移民家族が経験する、経済的・文化的・社会関係的資源の不足を指摘し、移民の子どもだけではなく、親も含めた二世代の社会的包摂が必要であることを提起した。この成果は来年度に共編著書として出版予定である。 第三に、「外国人の母親のための育児サロン」におけるフィールドワークを継続し、特にコロナ禍におけるボランティア活動への影響に注目した。サロンに参加する移民第一世代の母親5名と日本人ボランティア3名に半構造化インタビューを行い、コロナによって生じた生活の変化や困難について詳細に聞き取った。また、10年以上に渡って継続的に調査を実施している移民第二世代の若者3名について、コロナ禍での生活の変化についてフォーカスグループインタビューを実施した。これらのデータはすべて文字起こしして分析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はコロナ禍によって予定していたサンフランシスコ学区での海外調査を実施することができなかったが、これまでに収集したデータの分析を進めて新たな知見を共著書および投稿論文にまとめることができた。 また、国内調査に関しても新規にフィールドを開拓することに困難をきたしたが、すでにラポールが形成されていたボランティア団体の育児サロンでは継続して参与観察を実施できた。この育児サロンを起点に移民第一世代の母親たちとつながり、コロナ禍による子育てや仕事の状況の変化についてリアルタイムで語りのデータを収集できたことは意義深い。継続的な調査を行っている1.5世の若者たちについても、コロナ禍の影響が仕事と生活、家族関係全般に及んでいることがインタビュ―から明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
移民の家庭と学校をつなぎ、移民親子の包摂を促す支援システムおよびそこに果たす文化媒介者の役割を明らかにするため、以下の作業を進める。①日本国内で母語教育・母語支援員の配置を行っている自治体の施策を整理・分析し、サンフランシスコ学区の施策と比較考察する中で日本の支援システムの特徴および課題を析出する。 ②上記自治体のとりくみについて担当機関でヒアリングを行う。コロナ禍の長期化によりフィールド調査は当面の間困難になると思われるが、可能な限りオンラインで情報収集を行い、フィールド調査に備えて①の施策分析をもとにインタビューガイドを準備する。 ③ひきつづき育児サロンの参与およびサロンを拠点としたスノーボールサンプリングによって移民第一世代の母親たちをリクルートし、就学前機関や学校、地域社会とのかかわりをどのように経験しているかについてインタビューを行う。 ④母語支援員をはじめ、ホスト社会と移民家族をつなぐ文化媒介者の人々にインタビューを実施する。 ⑤パンデミックの収束後にはサンフランシスコにおいてフィールド調査を実施する。前年度までに訪問したニューカマー受け入れ校においてインテンシブな参与観察を行い、移民家 族に対する学校を中心とした福祉・教育面での支援およびその課題について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響により、予定していたサンフランシスコ調査と国内調査を中止せざるをえず、旅費の未使用分が発生した。未使用分はコロナの収束以降、フィールド調査の旅費と滞在費に使用する予定である。
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