今年度の研究成果は以下の通りである。第一に、当事者の市民団体である継承ポルトガル語教室を訪問し、継承語の学習や日本語の補習授業の様子を参与観察した。また、教室の代表者、日本人ボランティア、参加している日系ブラジル人の親子の予備的なヒアリング調査を実施した。この調査からは、継承語教室が集住コミュニティをもたない日系ブラジル人親子の結節点となり、子どもが母語や母文化を喪失することを予防し、親子の関係性をつなぐ役割を果たしていることが明らかになった。今後はこの教室で参与観察を継続し、継承語教室が受け入れ社会における移民統合に置いて果たす役割について考察を深める。また、代表者やボランティアのヒアリングからは、公立学校におけるバイリンガル通訳者の曖昧な制度的位置づけや不安定な雇用状況によって、彼女たちが学校で周縁化され、その影響が支援対象である子どもにも及んでいることが暫定的に分析できた。 第二に、移民第二世代の若者の追跡インタビューを実施し、調査開始時から10年以上の間の親子関係および社会関係の変化について考察した。その成果の一部は、日本教育社会学会大会において報告を行った。また、ケアと教育という視点から移民第二世代が直面する困難と制度的支援の現状を分析し、国際比較研究の可能性を探った。この分析は、ストックホルム大学と東京大学のオンラインシンポジウムで報告し、ストックホルム大の教員からフィードバックを頂いた。また、今後の研究連携の可能性を話し合うことができた。 第三に、移民家庭の子育てを検討する上での参照点となる、日本人の母親の子育て意識と実践についての考察を、メルボルンで開催された国際社会学会大会において発表した。日本の子育て規範を、国際比較の視点から相対化し、不平等なジェンダー秩序と非正規労働によって、子どものケアや教育の負担が女性に偏っていることの課題をあぶりだした。
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