最終年度(2022年度)には、福祉国家型教育財政をめぐる具体的制度措置状況を検討し、とりわけアメリカの大学授業料無償措置に関する施策の検討を行った。とりわけ各州に急速に広がりつつあるプロミス・プログラムの政策分析をすすめ、これが授業料の完全無償化につながる制度構造を明らかにし、また、州によっては同制度が授業料無償のみならず、学修費用にも援用しうるものとして取り入れていることを示した。これに対し日本における大学授業料無償化政策がきわめて狭い制度枠組みにとどまっていること、今後、学修費用その他の支援措置にまで拡大することの必要性と政策的課題を指摘した。 研究期間全体(2019年度~2022年度)では、新型コロナ感染拡大という特殊な歴史的事情に鑑み、福祉国家型の教育財政制度原則である「普遍的現物給付」と「普遍的現金給付」の観点から、コロナ対策としての子ども・青年向け支援施策の実施状況について、各国の制度分析を行った。新自由主義改革のもと「市場拡大」を意図した公共政策が社会保障の各領域に持ち込まれ、公共サービスの多くを商品として購入せざるをえなくなり、その結果、新型コロナ感染拡大防止を目的とする営業自粛等の措置によって所得収入の大幅な減少が、子ども・青年の生活に甚大な影響を与えることとなったことを明らかにした。こうした研究成果をふまえ、福祉国家の制度原則にもとづく教育財政制度を整備・再設計することによって、新自由主義教育改革からの反転の像を描出した。
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