最終年度では、工業系女子に対するインタビュー調査を引き続き進めるとともに、工業系女子たちの職業選択に関する経験に関する分析・考察を行い、学会発表を行った。 具体的には、職業選択のバリエーションとして①ストレート(適応:工業系学校⇒工業系職種)、②シフト1型(離脱:工業系学校⇒非工業系職種)、③シフト2型(参入:非工業系学校⇒工業系職種)、④その他(進学など)の諸類型のうち、①ストレート層に着目して彼女たちの仕事内容や職務をめぐるジェンダー語りを分析した。調査の結果、工業系キャリアの職務における女性の不利が語られることは少なくないが、同時に、職務の女性的な側面を取り上げて語る女性が存在することも明らかになった。こうした語り方は、これまで「男性向け」とされてきた職業イメージの転換可能性を示唆するものである。しかし同時に、ジェンダー観それ自体を再生産する語りでもある。これらの事例が職業とジェンダーの関係再編にいかなる意義や意味をもつものなのか、今後は理論的な検討も進める必要がある。 研究期間全体を通じて、コロナ禍での調査進展が計画通りに進まなかったことは否めないが、一定数の協力者を得て、工業系女子のキャリアの多様性を把握することができた。とくに、工業高校や工業系専門学校、あるいは工科系大学に在学している生徒・学生や、そうした学校を卒業した後に初期キャリアを形成してきた若年女性の経験を調査するなかで、工業系キャリアをめぐる認識の形成過程や、進路希望・職業希望の形成過程におけるジェンダー経験を把握し、いくつかの仮説的な論点を抽出することができた。この点は本研究課題の重要な成果であり、今後のジェンダーと職業教育の研究や、ジェンダー視点からのキャリア研究に示唆を与えるものと考えられ、考察を精緻化させる必要がある。
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