本研究の目的は、日本で実施されている国際バカロレア(International Baccalaureate:以下、IB)のうち、初等教育プログラム(Primary Years Programme:以下、PYP)に焦点を当て、その特徴及び効果について実証的に明らかにすることであった。特に、教科横断的に実施されている探究の科目や、PYPのカリキュラム等の特性によって、児童のどのような態度や能力が育成されるのか、公立小学校の児童と比較することで明らかにした。また、どのようなタイプの児童にとって、探究的な活動は効果的であると言えるのかを明らかにした。 日本の公立小学校で実施されている総合的な学習の時間とPYP校で実施されている探究の科目において、社会情動的スキルが育成されていることを示した上で、探究的な学習活動における社会情動的スキルを測定するための尺度を作成した。これらの項目について因子分析を行った結果、「協調性」、「開かれた心」、「他者関係性」」、「課題解決」、「感情制御」の5因子が抽出された。これらはOECDが示す社会情動的スキルの概念的枠組みと一致しており、これらを探究的な学習活動における社会情動的スキルの下位概念とすることにはある程度の妥当性があると判断した。また、抽出された5因子の平均得点に対して、t検定を行った結果、PYP校は公立小学校よりも探究的な学習活動における社会情動的スキルのうち「他者関係性」、「開かれた心」、「感情制御」で有意に高かった。相対的にPYP校の方が公立校よりも社会情動的スキルが高かった理由として、PYPでは「IBの学習者像」を学習活動の中心に明確に位置づけている点等が考えられる。また、総合的な学習の時間においては、児童の「協調性」や「統制性」を養うことが達成感をより高める可能性が示唆された。
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