研究課題/領域番号 |
19K02569
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
広瀬 裕子 専修大学, 人間科学部, 教授 (40208880)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 自律性の機能不全 / 教育経営 / 介入支援政策 / 地方教育行政 / Covid-19 / 持田栄一 |
研究実績の概要 |
本研究は、教育経営が重篤な機能不全を起こしたケースの分析を直近の目的としている。注目する事例は、有事的状況下で教育行政が機能不全を起こしたイギリスのロンドンなどにみられたケースである。ケースそのもののみならず、これらの重篤ケースに対して中央政府が採用した強制的介入支援という、賛否ありながらも効果を発揮した支援手法から、有事対応を構想する場合の有用な知見が得られる。 これらの事例分析の先には、そうした平時の制度枠に順当には収まらない有事対応などを含め、有用であるにもかかわらずイレギュラーな様相を見せる諸政策をも整合的に理解する教育行政の理論プラットフォームの構築を想定している。 事例分析についてはフォローアップの段階に入っている。ただし、2020年度に継続する予定であったフォローアップ調査は、Covid-19の感染拡大のために現地調査そのものが困難となる事情が生じたために中止し、研究計画を一部変更して日本の事例を分析対象に加えた。この中止を生じせたCovid-19の感染拡大そのものが、教育行政にとっても有事的な状況であるという理解の下、Covid-19に対応するための日本の学校事例の実情に関する情報収集を行うこととした。 合わせて、事例分析の先に想定していた理論研究にも重点をおいて作業を行なった。有事的イレギュラーケースなど教育行政の通説では説明できない新種の政策をも含めて整合的に把握しうる理論枠組みの構築に向けては、持田栄一の教育行政学理論に可能性を見出している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度はHackney区の学校訪問などの現地調査を実施することになっていたが、Covid-19の感染拡大の影響で現地への渡航それ自体が困難となったためにイギリスの現地調査は中止せざるをえなかった。それに伴い研究計画全体を見直すこととした。 未曾有のCovid-19の感染拡大の中で教育をどのように進めるかということ自体が、教育行政及び教育経営にとって有事的状況であるとの認識を持つに至った。リアルタイムでなければ収集できない情報もあるために情報収集は急務である。事前にコロナ禍関係の報道情報などを収集した上で、学校ガバナンスの中心にいる校長などに焦点を当てた聞き取りを開始した。2020年度に行った聞き取り分の成果は、現在取りまとめ作業の最中であり、将来的に論文として発表する予定である。 並行して行っている理論研究については、有事的なガバナンスをも含めて整合的に事象を解釈できる教育行政学のグランドセオリーの構築に向けて作業を続けている。展望への可能性が得られる理論として、教育行政を近代公教育行政と把握する持田栄一の理論に注目している。1960年代から1970年代にかけて精力的に研究活動を行なった持田は、近代公教育を「私事」としての教育秩序の国家保障という壮大な理論的枠組みで抑えた上で、そこに教育を教育の「技術過程」と「組織過程」の二重性において把握する現実的シェマを走らせる立体構造において教育行政を把握しようとした。この理論枠には、本研究が注目している多様な政策事象を問題なく説明しうる汎用性を持があると思われるため、時代を超えた継承のための理論処理に取り組んでいる。 成果をまとめた試論2本は、研究代表者編著による図書に収録して近々出版される予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、イギリスの事例に関する分析の総括を行いつつ、2020年度に新しい事例としたCovid-19下における教育ガバナンスの事例分析を継続する。並行して、展望が見えてきた教育行政学のグランドセオリーの構築作業を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた英国現地調査をCovid-19の感染拡大のため中止せざるをえなかったため旅費の支出が少なくなった。渡航調査は次年度にCovid-19状況を見ながら可能であれば再開するが、引き続き困難であると判断した場合には国内調査や研究会開催など別費目で使用する。
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