研究課題/領域番号 |
19K02571
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小林 敦子 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (90195769)
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研究分担者 |
天童 睦子 宮城学院女子大学, 一般教育部, 教授 (50367744)
鐙屋 真理子 (一見真理子) 国立教育政策研究所, その他部局等, 総括研究官 (20249907)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 家庭教育 / 倫理的規範 / 東アジア / 子どもの社会化 / しつけ / ライフストーリー法 / 年中行事 / 社会情動的スキル |
研究実績の概要 |
【研究目的】本研究は、文化伝達による子どもの社会化の諸相について、規範的文化の継承と断絶に焦点を当て、東アジア地域(中国、台湾、韓国、日本)の家族と家庭教育を比較しながら検証するものである。近代化が、子どもの社会化、家庭教育にいかに影響を与え、具体的なしつけ作用に立ち現れているかを教育学の視点から分析する。 【研究方法】(1)ライフストーリー法を用いて、各国・地域の家庭における祖父母世代(80歳代前後)、父母世代(50歳代-60歳代)、子どもの世代(20歳代-30歳代)の3世代インタビューを実施。(2)日本では、東京都荒川区などでインタビューを行った他、質問票調査も実施。 (3)中国、韓国、台湾については、海外研究協力者の協力でのインタビューやSNS・メールでの追加調査を実施。(4)インタビューや質問票調査の分析。 【研究成果】<日本>(1)約束を守る、嘘をつかない、物を大切にするといった倫理規範が世代を超えて継承されている。(2)男の子らしく/女の子らしくふるまうといった子育てのジェンダー規範は、「子どもの世代」になるにつれて弱まっている。(3)学歴重視の傾向から、子どもの生活の充実や幸せが大切といった個人的幸福を企図する志向性が、「子どもの世代」の若い親で強まっている(再生産戦略の個人化)。<中国、台湾、韓国>(1)子育てにおいて倫理規範の世代間継承がみられることやジェンダー規範の弱まりなど、日本と共通する点が多い。(2)祖父母から父母へと世代が下るにつれて、子どもの学業や学歴を重視する傾向が強まっている。ただし、「子どもの世代」の若い親においては、単に学業だけではなく子どもの個人的幸福を願う志向性も生じている。 【研究成果の公表】(1)国際ワークショップの開催、(2)国際学会・国際シンポジウムでの報告(国外)、(3)研究ジャーナルへの論文掲載、(4)ホームページでの情報発信
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は、コロナウイルスの影響を受けインタビューの実施が難しかった。しかし、電話、メールなどを使いながら、データの収集・分析、研究結果の公表に努力した。 <調査> 1,日本 (1)家庭教育に関するインタビュー調査(東京都荒川区)、(2)家庭教育に関するインタビュー調査(宮城県仙台市)、(3)質問票調査(郵送による調査票の回収、サンプル数200)。2,海外(1)台湾:追加のインタビュー調査を実施。(2)中国:研究協力者の協力を得て、インタビュー・データを収集(12家族、少数民族家庭を含む)。(3)韓国:研究協力者の協力を得て、継続的に調査を実施。 <分析>質的データおよび量的データの分析を行った。 <研究成果の発表>1,ワークショップ主催:「国際ワークショップ2021 東アジア地域における家庭教育と規範的文化の伝達の諸相-各地域のケーススタディをふまえて」(@早稲田大学、オンライン、2021年12月13日)(早稲田大学現代中国研究所の協力を得て、同HPで国際ワークショップに関する情報発信)2,講演・口頭発表:(1)「2021首届全球児童発展与家庭教育論壇」(北京師範大学、2021年5月14日、オンラインでの講演)、(2)The 27th Taiwan Forum on Sociology of Education (台湾教育社会学会、10月2日、台北、オンライン参加)における発表、(3)「2021年宋慶齢児童発展国際論壇」(中国・宋慶齢基金会、2021年11月16日、オンライン参加)、3,論文:国際ジャーナルであるInternational Journal of Educational Research誌への掲載など。4,HP(宮城学院女子大学・「女性・子どもと地域」研究ネットワーク)で、本科研に関する情報発信。http://wac-lab.com/culture.html
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今後の研究の推進方策 |
(1)研究打ち合わせ;①国内で2~3回の会合を実施する(2022年3月に対面で実施、今後オンライン・対面で開催予定)。②中国(北京師範大学、北京師範大学珠海校)、台湾(中国文化大学、実践大学)、韓国(明知短期大学)と、研究の総括について検討する(web会議)。 (3) ①国内調査:東京都荒川区を訪問し、インタビュー調査を実施予定(2022年6月)。②その他の国内調査:インタビュー調査に関わる追加調査を実施予定(東京近郊)。③海外調査:小林敦子(研究代表者)は可能であれば、2022年度中に北京師範大学を訪問予定。 (4)分析:これまで日本、台湾、中国、韓国などで収集した質的データの翻訳及び分析を、統計ソフトであるMAXQDAなどを使いながら精緻に行う。量的調査で収集したデータも統計ソフトを使い検討する。その上で、東アジア地域における家庭教育に関する理論的枠組み作りを目指す。(5) 研究成果の発表:①「International Workshop Picture Book Reading and Children’s Development」(早稲田大学、2022年5月23日。主催:本科研グループ)、②「第1回学習型社会与学習型組織国際学術論壇」(天津大学、2022年6月16日)、③「第9回社会治理創新智庫論壇」(福建省全民終身教育促進会、2022年6月19日)、以上で報告予定である。その他の国内外での学会でも発表を行う。さらに研究の総括として、④2022年12月23日に早稲田大学で国際シンポジウム「東アジアにおける女性の戦後史にみる家族の記憶と文化伝承」を主催する。海外の研究者も招聘予定である。⑤ジャーナルなどに、研究成果を発表予定である。⑥本科研の総括として、「完成年度・研究報告書」の発行を予定している。⑥研究報告書を発展させて、次年度以降、書籍の出版を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由の一つとしては、コロナ禍に伴い、調査の進展が遅れたことである。本研究は、インタビューを活用しての研究であり、調査計画に高齢者を対象とするインタビューが含まれているが、高齢者の場合、感染リスクを避けながら、慎重に調査を行うことがとりわけ必要であった。そのため、データの収集に時間をかけながら実施した。 もう一つの理由であるが、研究成果の総括・発表のための国際シンポジウムの開催がある。2022年度は、2021年度に比べてコロナ禍が落ち着きを見せるように思われる。そのため、2022年度に対面式と同時にオンライン配信を行うハイフレックス型での国際シンポジウムを、早稲田大学にて開催する予定である(2022年12月23日)。可能であれば、東アジア地域の研究協力者を、早稲田大学に招聘したい。このように本科研の研究成果を国際的な場で発表し、広く周知するため、2021年度の予算の一部を、2022年度に繰り越した。 データの収集が遅れたため、時間が1年間、余分にかかっているが、十分な時間をかけながら、データの分析を行うことも可能となった。2022年度においては、「完成年度・研究報告書」を刊行する予定である。また、この研究成果報告書をもとにして、次年度以降に書籍(仮題「東アジアにおける女性の戦後史にみる家族の記憶と文化伝承」)を出版予定であり、基礎作業のために、2022年度予算を使用する計画である。
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