研究実績の概要 |
本研究の研究成果として、以下の知見が得られた。(1)東アジア(日本、中国、台湾、韓国)の各国において、礼儀正しさや正直、勤勉といった規範的文化の伝達は、祖父母世代から親世代、子世代、さらに次の世代へと伝達されている。家庭教育の危機といった言説は当てはまらず、むしろ社会の側の問題を家庭問題に帰結させるような、家庭教育言説がある。(2)「教育する家族」の登場といった育児戦略の変容が、東アジア地域の共通項として生じている。ただし、出現の仕方にタイムラグがある。日本の場合は、高度経済成長期以降である。中国の場合には、文化大革命後の大学入試制度の復活以降の現象である。(3)学歴重視の傾向から、子どもの生活の充実や幸せが大切といった個人的幸福を企図する志向性が、近年の若いファミリー層で強まっている(再生産戦略の個人化)。とりわけ日本では、こうした傾向が顕著であるが、中国、台湾、韓国においても現象として見られるようになっている。 以上の研究成果を、本研究の総括として、2023年に開催された第20回ISA World Congress of Sociologyで発表した(Atsuko Shimbo and Mutsuko Tendo, “Human Capital Discourse and Cultural Resources: A Case Study of Family Education in Japan" ,the XX ISA World Congress of Sociology,RC04,28 June 2023,Melbourne, Australia)。分科会には、アメリカ、台湾、中国などから社会学者、教育社会学者が参加して活発な議論が展開された。本報告は東アジアにおける家庭教育及び家庭における規範的文化の継承に関して新たな知見を与えるものとして注目された。
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